コロナワクチンの重篤有害事象(副反応)の報告は、本当の100分の1程度(NEWS No.567 p04)

コロナワクチンの有害事象adverse event(AE)の政府発表が信頼できるものでしょうか?
今回は、ランダム化比較試験RCTを基準に検討しました。

<日本の報告率は当初と比べ激減>

日本でのコロナワクチンが始まったのは昨年の2月、医療従事者から開始されました。途端にアナフィラキシーを中心に多数のAEが報告され、報道されました。4月からは高齢者が対象になりましたが、その後、報告は急速に減りました。下図は、ファイザー製でワクチン接種後の、昨年の2月から11月の、1万人接種当たりの重篤seriousな有害事象(SAE)の報告率の推移です。当初の11件から6月には1.0を切り、その後は0・3にまで落ち込んでいます。モデルナは5月に開始されていますので当初から1.0を下回り0.1にもなっています。(図1)1)

図1

(2月17日から11月21日までの報告率)

AE報告の信ぴょう性の基準はRCT

それでは、AE報告の信ぴょう性はどれほどかを検証する基準はあるのでしょうか?残念ながら、個々の報告例の検討からはAEの発生率は分かりません。AE発生率は市販後のモニタリングやコホルト研究に頼らざるを得ません。しかし、それらの数字が正しいかどうかの判断の基準がないので、効果と比べると「大した率でない」ことで終わりそうです。

そこで私は、AEが最も厳密に報告されるはずの最も厳密なはずのRCTのデータを基準にしてはどうかと考えました。ご存じのように、RCTの弱点は発生率がとても少ないAEはとらえられないことです。しかも、コロナワクチンのRCTはいずれも短期間しか観察していません。例えば、10人以上の死亡数を報告しているのは6か月間観察した一つのRCT2)だけと思われます。

また、AEは接種なしでも生じるのでワクチンの関与は、RCTのワクチン群(V)引くプラセボ群(P)の差を見る必要があります。なぜなら、AEはそれがワクチンによるものかどうかは不明ですが、RCTでのワクチン群とプラセボ群とのAEの差はワクチンによるものだからです。

RCTAEの厳密なレビュー結果>

9月22日にワクチンの専門誌Vaccineに掲載された、Fraiman JやPeter Doshiらの論文3)は、この問題を解決してくれました。SAE件数の発生率と、そのワクチン群とプラセボ群の差、すなわち真にワクチンによるSAEの件数をが明確になりました。ファイザー製のRCTではワクチン群の方がプラセボ群よりも有意にSAE件数が多いことが証明されていました。

彼らの論文は、ファイザー製とモデルナ製のmRNAワクチンのRCTを掲載された論文のデータに加え、FDAとカナダ政府が公開した資料を用いて、SAEの頻度などを分析したものです。

この論文の目的は、現在一般に入手できる最高のデータで両ワクチンのSAEなどのデータを分析することでした。

それによれば、SAEは1万人当りファイザー製で67.5、モデルナ製135.7、両ワクチンの合計では、98でした。

また、それらのワクチンとプラセボのリスクの差は、ファイザー製でSAEは、1万人当り18(1.2 to 34.9)、モデルナ製では7.1(-23.2 to 37.4) となっていました。

そこで、RCTのSAEと、日本で厚労省に報告されているSAEがどの程度違うのかを明らかにしようと思いました。なぜなら、日本では、多数のSAEと死亡者が報告はされているとはいえ、それらの報告率は本当の率と比べてどの程度なのか全く不明です。

<日本の市販後調査の報告率は、RCTSAE報告率の145分の1、ワクチン群とプラセボ群とのリスク差の25分の1(ファイザー)と15分の1(モデルナ)>

表1は、SAEの報告率のRCTと日本の報告率1)を比較したものです。日本のファイザー製ワクチン接種後のSAEの報告率はなんと1万人当たり0.72で、RCTの報告率の94分の1,モデルナ製でのそれは、291分の1でした。

表1


次に、表2のように、Fraiman J らの論文では、1万人当たりのワクチン群とプラセボ群のSAE件数の報告件数の差(=リスク差)は、ファイザーで18、モデルナで7.1でした。

(表2)

(なお、表1も表2も、数字はRCTがワクチン接種1回目と2回目のデータのため、日本のデータもRCTに合わせて1・2回目接種のものを使っています。)

繰り返しになりますが、この差はワクチン以外の原因は除去されていますので、ワクチンそのものによる有害事象の頻度を表します。この率の人たちがワクチン「副反応」として認定される必要がある率です。

日本での報告率は、RCTのリスク差よりもはるかに少なく、ファイザー製で25.1分の1、モデルナ製で15.2分の1でした。なお、ファイザー製では統計的有意差があり、モデルナ製も数字が大きくなれば有意差が出てくる可能性が大です。

<日本のSAE報告数の少ない理由は?>

SAEは注射部位の痛みや短期間の熱のような軽症ではなく、多くの苦痛を与えるものであり、命を脅かすこともあります。RCTでもワクチンが原因如何に関らないもので1万当り100(1%)前後の発生率です。しかし、日本での報告率はその100分の1程度しか報告されていなく、99%は闇に葬られている可能性があります。

このように、RCTと比べて報告件数が少ない原因として、日本の場合にはAEとして報告する症状が狭く限定されていることが考えられます。(厚労省「医師等の皆さまへ~新型コロナワクチンの副反応疑い報告のお願い~」の報告の基準参照)4)

<カナダのAE報告は日本よりまし>

それでは他の国ではどうでしょうか?先の論文で、多数のAEの報告がカナダの資料から得られたとのことなので、カナダの報告5)と比較してみた。

(図2)カナダのSAE報告率の推移

カナダもRCTと比べるとはるかに少ない報告率です。しかし、1万人当たり2.41で、ファイザー製で3.3倍、モデルナ製で5.1倍、日本の報告率より高くなっています。

また、日本の場合その率は初期から急速に低下しています(図1)がカナダではその傾向は少なく、全体としては減少していません。(図2)。とはいえ、RCTの報告率と比べると30分の1程度です。なお、カナダのデータも、RCTや日本と合わせて1・2回目の接種が大部分と考えられる最初の1年間を集計しています。

<結論>

日本でのAEは、本当の発生率の1%程度しか報告されていない可能性があります。ワクチン接種後のAE(少なくとも重篤なものは)は制限を設けず、全ての報告を受け入れるべきです。また、RCTの個人レベルのデータを公開し、それにより市販後モニタリングを補正し、その限界性を明確にして国民に正しい情報を伝えるべきです。

<文献>

[1] 000998157.pdf (mhlw.go.jp)

[2] Microsoft Word – Thomas_Supplementary Appendix_Clean_pagesupdated9Sept.docx (nejm.org)

[3] https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2022.08.036

[4]

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_hukuhannou_youshikietc.html

[5] https://health-infobase.canada.ca/covid-19/vaccine-safety/

<日本政府の重篤>1)

※「重篤」とは、①死亡、②障害、③それらに繋がるおそれのあるもの、④入院、⑤①~④に準じて重いもの、⑥後世代における先天性の疾病又は異常のものとされているが、必ずしも重篤でない事象も「重篤」として報告されるケースがある。

※重篤報告数は、全報告数から、非重篤及び重篤度が不明な報告数を除いたもの

(RCTの「重篤」の定義も同じではありませんが、大きな違いはない。)

はやし小児科 林