コロナインフルエンザと同じではない  2類から5類への変更のカギ?となるデータの分析(NEWS No.569 p03)

1月20日、岸田首相は今春(4月か5月)に新型コロナウイルス感染症を2類相当疾患から5類相当疾患に引き下げる方針を表明した。本稿ではこの問題を論ずる。
新型コロナが出現して3年が経過した。新型コロナへは感染症法、検疫法、特措法などで隔離などを含む様々な措置を行ってきた。2類から5類への転換は、以上の措置等が原則なくなり、例えば入院勧告や濃厚接触者への外出自粛要請などはなしになるなど、自由が増すかに見える。これらの法的整備が国民の命を守る視点からのものであれば良い。が、同時に感染者の入院費や検査費への援助などもなくなる、医療機関への補助打ち切りもできるなど、コロナを収束させるための手段ではなく、むしろ「with コロナ」に名を借り、施政者の医療に対する責任を回避させ、国民の自己責任にすり替える方針でもある。政府のコロナ対策分科会会長の尾身茂氏が1月21日新聞インタビューで「5類になったら、コロナ診療に参入する医療機関が増える、あるいは感染が下火になったり、死者が減ったりすることはありえない。5類にするなら高齢者の治療、ケア、生活支援を中心に今のうちから準備をすすめるべきだ」と語り、コロナで明らかとなった日本の医療の脆弱な医療政策整備体制に触れざるを得なかった。

1月14日現在、新規患者発生が過去最大、しかも世界最大でありながら今5類問題を持ち出すために、コロナはインフルエンザと同等であるという見方が意図的に強調されるようになった。この方針を助長するためのキーともいえるデータが12月専門家会議に公表されたので、3点にわたって批判したい。(表1)がデータの概略である。

1.コロナは合併症が多くしかも経過の長い全身疾患の場合が少なくない

これについては先月号に言及したが、脳症などの重い神経系の合併症だけでワクチン接種後の再感染の30-40%にみられ、心疾患なども認められる。それに対しインフルエンザでは経過も短く脳症も起こるが解熱剤の副作用であるし、細菌性肺炎の合併以外の肺炎は1918年のスペイン風邪以降まず見られていない。

2.(表1)データはインフルの致死率を多く見積もっている

(表1)でインフルエンザの診断は検査でされるが、検査したこと=インフルエンザと診断しているため、結果が陽性かどうかはわからない。インフルエンザ以外で亡くなったひとが多く死亡者とカウントされている可能性が高い。(表1)データの推定致死率が妥当かを検討した。致死率は病気に罹患した人の中での死亡者の割合のこと。一方死亡率や罹患率は人口に対する死亡者や罹患した人の割合である。例えば1000人の集団で50人が罹り、2人が死亡とすれば罹患率は5%、死亡率は0.2%、致死率は4%。

(表2)に2017年の政府統計からのデータを示す。インフル死亡者は全部で2569名、80歳以上は2034名である。これに対し、(表1)の80歳以上の致死率は1.73%と仮定されている。この両者からインフルの罹患者は2569/0.00173=117572名と導かれる。同様の計算で、全年齢のインフル罹患者は合計約116万人となる。実際のインフル罹患数については約4500ある全国のインフルエンザ定点報告医療機関などのデータから2017/18年シーズンについては1450万人と公表されている。(表1)データからの致死率データとは10倍以上異なっている。致死率データを1/10にするとインフル罹患数は1157万人となり実際に近づく(致死率と罹患数は反比例する点に注意)。さらに実際のインフル罹患は小児、成人を中心に60歳未満が90%以上、80歳以上は2-3%しか占めないこともわかっているので高齢者の致死率はもっと少なく(表1)推計の1/30以下の0.03%くらいになると推定される。

3.(表1)データは新型コロナとインフルエンザの感染力の違いに言及していない

感染力は感染した人が何人の人にうつすのかで量的に表すことができる。再生産数というが、例えば最も感染力の強い疾患の一つである麻疹は12,3を超える。季節性インフルエンザは1.3程度。スペイン風邪パンデミックとして有名な1918年の新型インフル流行時でも1.8だった。オミクロン株はもともと7.3と高い再生産数である(基本再生産数)が、いろいろな方策で3.4くらいに抑えている(実効再生産数という)。流行は再生産数の倍々と広がるので感染力を考慮すると、インフルは5代目に1.3の4乗=2.9、一方オミクロン株は3.4の4乗=134となり40倍の差となる。オミクロンもインフルも他人には2-3日でうつすので(serial timeという)5代後の約2週間後の死者は40倍も違うという計算になる。危険度が全く異なる疾患であるのにあたかも同じレベルの疾患に見せようというからくりである。実際にデルタ株はオミクロン株の4倍以上致死率が高いのに(表1のこの部分は正しい)、1/2の期間でオミクロンの死者はデルタ株を上回っている。

以上3点から(表1)データを根拠にしたコロナはインフルと同じであるという論理は成り立たない事がわかる。コロナはインフルとは桁の違う疾患である。

必要なことは2類相当を5類にすることで政府の負担を軽くし矛盾は自己責任や民間任せにするということではなく、コロナ流行で露呈され深化している日本の脆弱な医療の崩壊を改善するための施策―保健所や介護医療施設、病院、消防などへの人的、設備的な再編強化などの医療拡充である。これは第一線で働く医療者へも何よりの励みともなる。

勤務医 山本 英彦