コロナワクチンのコクランレビューの内容について(NEWS No.569 p07)

コクランのコロナワクチンレビューが、昨年12月に出ましたので、久しぶりにコクラン共同計画を取り上げます。なぜなら、コクランのレビューは高い権威を勝ち取っているため、その結論は各種ガイドラインを含めて、実際の医療現場に非常に大きな影響を与えるからです。

<タミフルのレビューも間違っていたが……>

2009年のタミフルのレビューで製薬会社の研究会などに出されたデータを含めたデータによる「入院・重症化」を防ぐとしたコクランのレビューが発表されました。それが、タミフルが世界で備蓄され、治療にも使われる根拠になりました。
その後、私たちの指摘がきっかけとなり、タミルのコクラングループは、ロシュに臨床試験の全データを明らかにするよう強く求める運動を起こし、データを得た結果、タミフルはそれらに効果なし結論を出しました。

製薬企業の元データが不明な論文を根拠にすることは、正しいレビューでないことがコクランはもとより世界の臨床疫学の常識になりつつありました。

<製薬企業の反撃とコクランの後退>

しかし、製薬企業の巻き返しが激しく、コクランも製薬企業の影響を大きく受けることになりました。
その象徴的な出来事は、2018年5月のヒトパピローマウイルスワクチン接種を肯定したコクラン・レビューが発表され、それが大きな間違いであると、コクランの創設者の一人ピータゲチェらがBMJ Evidence Based Medicineに批判文を出したことの顛末です。
このレビューは、例えば46件のランダム化試験中26件だけ検討、副作用についての情報を見落としていること、などで決定的な間違いがあったのです。しかし、この批判をしたコクランの中でも最も製薬企業と闘ってきたピーターゲチェは12人の理事中6人が賛成、5人が反対で、コクランから追放されました。この追放はコクランの精神に反するとして6人が理事を辞めています。コクランは製薬企業に大きく近づいたのです。

<コロナワクチンのレビューの質は?>

従って、コロナワクチンのレビューがどのような結論を出すかはある程度予測されていましたが、あまり早期には結論が出ず、最近になり、発表されました。発表が今になったことは、コクランの中でまじめな人たちの大きな抵抗があったのかも知れませんし、少しは含まれている正しい結論にも製薬会社が抵抗したのかもしれません。
私は、コクランを否定することではなく、できればコクランレビューの問題点を指摘し、コクランの活動に反映することを目指すべきと考えます。そこで、昨年12月7に発表されたレビューを検討しました。まず、「Cochrane review of COVID-19 vaccines shows they are effective」という見出しのコクランはこのレビュー結果を企業のマーケティングかの様に宣伝しています。(下図)

https://www.cochrane.org/news/cochrane-review-covid-19-vaccines-shows-they-are-effective

商業主義的な内容になっているように思え、内容が心配になりました。
著者を確認すると、ファイザー のジャコモ・グラッセリという「 講演業務担当者」がこのレビューアーの中に、が入っていることが確認されました。ファイザーの影響がこのレビューに行使された可能性は大です。

1,要約の不当性と多少ましな点

実際レビューを読んでみますと、要約では、「プラセボと比較して、ほとんどのワクチンは、COVID-19 の症状が確認された患者の割合を減らすか、減らす可能性が高く、一部の人にとっては、重症または重篤な疾患を減らすという確実性の高い証拠があります。」(林訳以下同様)とし、【著者の結論】には「深刻な有害事象については、ほとんどのワクチンとプラセボの間におそらくほとんどまたは全く違いがありません. 」と有害事象を多さを否定しています。
他方で、【実践への影響】では「試験が除外されているため、これらの結果を妊婦、SARS-CoV-2 感染歴のある人、または免疫不全の人に一般化することはできません。」と妊婦への接種などに一定の歯止めをかけています。また、「ほとんどの試験は追跡期間が短く、懸念されるバリアントが出現する前に実施されました。」と、コロナウイルス別の株に対する効果を示すものではないことを書いています。今となっては当然ですが、それでも多くの学会などとは違います。
【研究への影響】にも「今後の研究では、ワクチンの長期的な効果を評価し、さまざまなワクチンとワクチンのスケジュールを比較し、特定の集団におけるワクチンの有効性と安全性を評価し、長期にわたる COVID-19 の予防などの結果を含める必要があります。懸念される新たな亜種に対するワクチンの有効性と有効性の継続的な評価も重要です。」 とはしていますが、その研究のレビューはしていません。
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD015477/full

2、極めて重要なレビューの見落とし

さらに重要なことは、すでに、このレビューが出る3ケ月前に、Fraiman J et al.の重篤な有害事象SAEのレビューが著名なワクチン専門誌Vaccineに掲載され、有害事象の件数がワクチン群の方が有意に多い、などが明らかになっているにも拘らず、その点の言及は全くありません。
次に、本文について、簡単に検討します。多くのコロナワクチンについてレビューされていますが、今回はmRNAワクチンに限定します。

<効果の評価に関しての疑問点>

下はコクランレビュー結果の数字だけを表にしたもので、製造販売企業が行ったRCTを単純にまとめたものです。詳しくは無料で見られる全文を参照してください。

1, 症状のあるコロナ感染症

ファイザー製もモデルナ製もワクチンが症状のあるコロナの発生を9割以上も阻止したとしていることは既にご存知とは思います。それが本当だとすれば、国民の7-8割が接種を済ませている国で大流行が繰り返されていることの説明がつきません。開発当初ならいざ知らず、今頃になってそのこととの矛盾を指摘しないのは、レビューをした意味が問われます。

(*CureVacは販売されていません。)

2, 重症のコロナ感染

ファイザーとモデルナでは96%と98%防ぐとのデータです。
https://www.asahi.com/articles/ASQ664JT1Q65UTFL005.html

プラセボの重症コロナは、Thomasではコロナ感染者850人中34人、同モデルナでは744人中に108人と3.6倍の開きがあります。感染予防「効果」がほぼ同様の割に「重症化率」が大きく違うことの考察はされていません。これは、治験参加者の健康状態などの背景因子が違えば説明がつきます。しかし、後に述べる治験参加者の健康状態を強く反映する「重篤有害事象」は、観察期間で補正すると、ファイザーもモデルナもほとんど変わりませんので、両者の健康状態には大きな差がないとも考えられます。この矛盾は、元データの検討の必要性を示しています。

3,コロナ感染も含め全死亡数は減らず

下表は全ての原因による死亡数です。

合計すると、V群=39/60534(6.44/1万), P 群= 37/59216 (6.25/1万)で差はほぼありません。VもPも、コロナ感染の死亡も含んでいる(V:1人、P:2人)ので、少なくても死亡を減らしたとは言えません。観察期間はThomasは7.82か月、EiSalyは5.3か月、Kremsnerは6.23か月です。
次に、死亡以外の有害事象の分析ですが、コクランはいずれの重篤な有害事象も有意差がないから、ワクチンの害作用に問題はないとしています。これは、とても受け入れられない結論です。次回に、主の有害事象について紹介されてもらいます。

(はやし小児科 林)