いちどくを この本『ルポ 副反応疑い死―ワクチン政策と薬害を問いなおす』(NEWS No.570 p08)

『ルポ 副反応疑い死―ワクチン政策と薬害を問いなおす』
山岡淳一郎 著
ちくま新書版 924円(税込)
2022年12月刊行

著者はノンフィクション作家で、「政治・経済、医療、近現代史、建築など分野をこえて執筆」との紹介があります。

本書は’22年11月の出版ですが、本年1月17日或る全国紙が新型コロナワクチンについて、大見出し「ワクチン 残る不信」、小見出し「回数重ね 接種率低下」「被害救済追いつかず」「急がれる『後遺症(注)』対応」と題した記事を掲載しました。大きな紙面を占めておりコロナワクチンのデメリット(欠点)については初めての記事のように感じました。(注)ワクチン接種後にコロナ感染の「後遺症」のような症状を呈すること。

‘21年2月医療関係者から始まったコロナワクチンの総接種回数は約3億8千万回 (2月6日公表) を超え「G20ではダントツ」(週刊文春)との報道もあります。厚労省からワクチン接種後に死亡したのは’22年9月1854人、同11月1919人、’23年1月1963人との公表が続いており確実な増加を示していますが、医問研ニュース(2022年11月号)「コロナワクチンの重篤有害事象(副反応)の報告は、本当の100分の1程度(林敬次氏)」で検証されているように、公表される人数をそのままに受け取る訳にはいきません。

「副反応疑い死」について、「ワクチンの安全性を監視するのが目的で、接種のメリットと副反応のリスクを比べ接種の是非を判断する場」と記されている厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会は本年1月20日に至るまでも、α判定(ワクチンとの因果関係が否定できない)を出した死亡事例はなく、「引き続きワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められない」と言い続けています。ここでは「子宮頸がんワクチン問題 社会・法・科学」に書かれていた言葉を思い出します。「私たちは医師や科学者ではないが、私たちの視野がこの議論にとって重要であると信じている。あまりにも長い間、産業界と関係官庁の中で現実に、また潜在的に利益相反を持つ人々が、ワクチンの安全性についての世論を支配してきた。」

本書では「何よりも、ワクチン接種後、短時日で命を断たれるほど理不尽なことはない」「病気の治療で副作用のリスクを覚悟して投与する薬剤とは性質が違う」と述べています。

1948年成立の予防接種法下では「罰則規定ありの義務接種」による被害は「無過失予防接種事故」として国の責任は問われず「個人の尊厳」は放置されていました。被害者の会を立ち上げた人々の訴え、集団提訴に押され、国は1976年に「予防接種健康被害救済制度」を設定しますが、被害者が「国の公権力」執行責任を問う裁判は、東京高裁で国の敗訴が確定する1992年まで闘われます。その結果1994年、国の勧奨による個別接種を基本とする予防接種政策の大きな変更が勝ち取られます。

しかし今、予防接種法では臨時接種の新型コロナワクチンは新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく施策で、「接種しないでコロナになったら何を言われるか分からん!」との言葉が漏れ聞こえる職域接種などの「集団強制接種」が蘇っています。

「健康被害救済制度」について、厚労省ホームページには「厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象とする」としています。前出の紙面では、制度を担当する「疾病・障害認定審査会」が死亡事例の審査を始めたのは’21年12月、’22年7月に死亡一時金の支給を初めて決定し、総計20人のみ。本書(’22年11月7日時点) では、死亡での救済を求めた418件のうち審査件数は19件のみ(認定10件・否認1件・保留8件)。著者は「どうして副反応疑い死の救済はおくれるのか。その構造的要因を解き明かし、接種と救済の途切れがちな環をつなぐことが、本書を執筆した動機の一つである」と述べています。

「救済制度」の運用実態に迫るための取材活動は大きく広がっていました。接種3日後に突然死亡した30歳と28歳の男性、接種後のトレーニング中に倒れて他界したプロ野球選手、遺体解剖の担当医が「直接死因:急性肺動脈血栓塞栓症、原死因:ワクチン接種」とした61歳男性らを始めとする遺族の方々、「因果関係あり」とした主治医や解剖医、予防接種を担当することの多い小児科医や免疫学・遺伝医学研究者、製薬メーカーや厚労省ワクチン行政担当者など。

「医学的な因果関係までは必要とせず」としながら実際は「救済への高い壁」を作り、1992年の「国の損失補償責任・国家賠償責任」を認めた東京高裁判決(因果関係は一点の疑義も許さない自然科学的証明ではない)を反故にする現在の予防接種行政と闘う力を大きくするためにも必要な書物と考えます。

(小児科医 伊集院真知子)