先月号で、福島原発での原発事故による放射線被ばく量と低出生体重児などの胎児障害の発生率が「統計的有意な関連がないから、関連しない」との福島医大のKyozuka H らと、Yasuda Sらの2論文の問題点を指摘しました。福島原発事故の健康障害解明のため優秀な人材を集めたはずの福島医大の学者達が疫学の基本を本当に間違っているのかを確認するために再度取り上げました。
さて、4月13日に発表されたドイツの原発廃止決定の契機の一つに、原発周辺の小児がんの増加を証明したドイツ政府による「KiKK研究」があります。その統計を担った一人が、私たちと周産期死亡・甲状腺がん、低出生時体重児の論文を書いてくれたHagen Scherbさんです。彼にこの問題の解説をしてもらいましたので以下ご紹介します。
( )内は林の注釈、[ ]内は文献番号です。
「林敬次さんへ、(この問題については)既に、(福島医大の)この研究の以前のバージョンについて、私たちの低出生体重児(LBW)増加の論文で触れていました: 放射線医学総合研究所による福島県健康管理調査において、質問紙による妊娠・出産調査が実施されました[43]。この調査では、福島県の中西部5地域と比較して、いわきと相双の最東部2地域を合わせた地域で、LBW割合が増加していることが記録されています: OR 1.163、p値0.0723。この観察結果は、相双といわきで死産割合が増加し、OR 1.923、p値0.1321であったことからも裏付けられます。この研究[43]は(アンケート)回答率が60%以下であったため、より大規模な集団を長期間にわたって調査した場合には、有意な効果が得られると思われます。」と、福島医大が被ばく量とLBWの関連を否定することは間違いで、むしろ関連性を示唆しているとの統計的な基本を指摘しています。(以上は、3月号で「資料」として記載しています。)
さらに、HSさんは、今回のYasuda らの論文のデータから、下表を作成して説明してくれています。「これは、新しく淹れた冷たいコーヒーの粉(二番煎じ)に過ぎません。彼らは明らかに、何も発見できないように設計された研究を実行し続けています。」と、福島医大が、障害と放射線との関連を示さないための「研究」をし続けていると批判しています。
J Epidemol 2022;32(Suppl 12):S104-S114
Dose | total | <2.5Kg | >=2.5Kg | OR | p-value |
---|---|---|---|---|---|
>2mSv | 54 | 5 | 9 | 1.471 | 0.4193 |
<1mSv | 2173 | 141 | 2032 | ||
total | 2227 | 146 | 2081 |
上表の解説として、以下のように述べています。「この表のデータは、1mSv未満と2mSv以上の比較では:LBWが50%近く(OR=1.471)増加したことになりますが、『 p 値は 0.4195という有意とは程遠い【highly insignificant】値です。 』これは、彼らのアプローチの統計的検出力が低いため、2型エラーである可能性が高いです。」
さらに、「このような「否定的な結果」の正しい解釈については、私たちのEHへの手紙、そして、特に重要な参考文献をご覧ください。」と以下のNature論文を紹介してくれました。
https://www.nature.com/articles/d41586-019-00857-9 。」
このNature論文に少し触れます。「“統計的に有意差なし”もうやめませんか」Natureに科学者800人超が署名して投稿)との解説記事が以下の様に紹介しています。https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1903/26/news112.html
『「統計的に有意差がないため、2つのデータには差がない」こんな結論の導き方は統計の誤用だとする声明が、科学者800人超の署名入りで英科学論文誌「Nature」に2019年3月20日付で掲載された。調査した論文の約半数が「統計的有意性」を誤用しており、科学にとって深刻な損害をもたらしていると警鐘を鳴らす。』
「統計的に有意差がない=違いがない」は間違いと明確にしている、疫学では大変有名だと言われているこの論文を、知らなかったのなら、これらの論文を全て撤回すべきです。もし知っているなら、原発事故による明白な健康被害を「ない」とする同大学は、原発利権のために、現代科学を否定する、非科学的原発推進施設と言わざるを得ません。
(はやし小児科 林敬次)