<文献紹介> マスクの効果:コクランレビュー(NEWS No.572 p08)

3月13日よりマスクの着用は個人の判断に委ねるとのことですが、「マスク会食」という言葉が出現する位この3年間の日常生活にしみ込んだマスク、効果の程はどの程度?と思いながらも手放せないマスクです。「これからどうする? 新型コロナワクチン 2」(コンシューマネット・ジャパン編集・発行)の中で、田中真介氏(京都大学国際高等教育院)は「コロナウイルスの大きさは0.1~0.15μ以下(ミクロン。1μ=1/1000mm)。ウイルスを野球ボールとすると、通常のマスクの網の目は東京ドームくらい」「(飛まつ核感染やミクロのエアロゾルによる空気感染があるとすれば)マスクでは感染防止は困難とみられます」と述べています。また「マスク着用はウイルス感染の予防効果が乏しいことが、ランダム化比較試験(RCT)をはじめとする多くの研究によって示されてきました」とインフルエンザや新型コロナ感染での研究の紹介があります。

本年1月、コクランの急性呼吸器感染症グループが「手洗いやマスクの着用などの物理的な対策は、呼吸器系ウイルスの拡散を止めたり、遅らせたりするか?(訳:コクランジャパン)」と題するシステマティックレビュー(系統的総説)を公開しました。筆頭著者はトム・ジェファーソン氏です。上記の表題に関するレビューは2007年より公表されています。5回目の更新であった2020年レビューよりRCT研究のみを評価対象にしており、今回は2020年版を最新化したもので、COVID-19パンデミックのもとでの研究結果も含めています。目的に叶う文献の検索サイトはCENTRAL(コクラン中央比較試験登録簿)、PubMed、Embase(Excerpta medica database)、CINAHL(英米の看護文献を調べるデータベース)などです。2936件の登録文献をスクリーニングした後に36文献全文を検討。今回は2020年から23年の期間に公表された11件(試験参加者610,872人)が今までのレビュー対象67件に加わり総数78件のRCT研究の検討となりました。(コロナ禍で6件の新しい試験が行われています。メキシコから2件、デンマーク・バングラディシュ・英国・ノルウェーから各1件。)インフルエンザ非流行期に行われた研究が多く、2009年新型インフルエンザパンデミック期に数件、他は2016年までのインフルエンザ流行期に行われていました。種々雑多な状況下(高所得国での郊外の学校・病院内および移民地区、低所得国での混雑した市内、高所得国での移民居住地)での研究です。介入手段の順守は研究の多くで低かったとあります。

各種の研究バイアスについての評価が図示されていますが、バイアス・リスクは総じて高いか不明でした。(参加者と調査者の「目隠し化」で低リスクのバイアスと評価されたのは約20%だけの研究でした。詳しくは原文図2,3参照の事)

<調査結果>

*医療用/サージカルマスクとマスクなしの比較は、15件のRCTで検討。 ①インフルエンザ様疾患とCOVID-19様疾患でのRelative effect(比較効果)でのリスク比0.95[95%信頼区間(CI)0.84-1.09] 中程度の証拠 ②検査で確認されたインフルエンザとSARS-CoV-2でのリスク比1.01[95%CI0.72-1.42] 中程度の証拠

*N95/P2マスクと医療用/サージカルマスクとの比較は、13件のRCTで検討。 ①ウイルス性呼吸器疾患でのリスク比0.70[95%CI0.45-1.10] 非常に低レベルの証拠 ②インフルエンザ様疾患でのリスク比0.82[95%CI0.66-1.03] 低レベルの証拠 ③検査確認されたインフルエンザでのリスク比1.10[95%CI0.90-1.34] 中程度の証拠

*手指衛生と対照群での比較は、37件のRCTで検討。 ①急性呼吸器疾患でのリスク比0.86[95%CI0.81-0.90] 中程度の証拠 ②インフルエンザ様疾患でのリスク比0.94[95%CI0.81-1.09] 低レベルの証拠 ③検査確認されたインフルエンザでのリスク比0.91[95%CI0.63-1.30] 低レベルの証拠  ①、②、③を合わせたリスク比は、0.89[95%CI0.83-0.94] ただし目隠し化不十分や研究結果の不一致性などで低レベルの証拠にレベルダウンの評価です。

<著者の結論>

*マスク着用効果が出なかった理由には、研究計画の不十分性、ウイルス感染の流行程度、着用順守の低さ(特に子供)、マスクの品質、眼球での感染予防なしなど多くの理由がある。 *手指衛生は全ての状況下で一貫した効果があると考えられるので、必須の感染予防対策とすべき。

(小児科医 伊集院)