ドイツは原発廃止を実行しました。1980年代の反原発運動の高揚、1986年のチェルノブイリ事故、廃止決定と延期、福島原発後の廃止延長の否定、などを経てウクライナ戦争を利用した延期キャンペーンにもかかわらず全廃が実行されました。今号に、廃止までの経過などを、ドイツ在住の桂木忍氏に寄稿していただきましたのでぜひお読みください。
他方で、日本は福島原発事故を引き起こし、その原発の廃炉も見通しがつかず、多くの避難民・被害者の補償もまともにしないままに、ドイツと真逆の政策を強行しようとしています。
4月28日の原子力閣僚会議の「今後の原子力政策の方向性と行動指針」によりますと、各課題への対応の方向性と行動計画の最初に挙げられているのが、【再稼働】です。現在稼働済が10か所ですが、残りの許可済7か所,現在審査中10か所、未申請8か所の再稼働が狙われています。さらに、【運転期間の延長】など、既設原発の最大限活用としてこれまでの40年の運転可能期間を20年も延長して60年にするのです。
その上、【次世代革新炉の開発・建設】も行動目標にする極めて危険な政策です。
日本ほど地震多発地帯で稼働する原発は少なく、世界で最も危ない原発立地で、チェルノブイリに次ぐ過酷事故を起こした前より危険な政策です。
福島原発に放射能汚染水の海への放出も既定のごとく書かれています。
このような原発依存に固守する日本の政策は極めて異常ですが、それを隠すための理屈は、「2050年カーボンニュートラルを実現するために、安価で安定したエネルギー供給によって国際競争力の維持や国負担の抑制を図りつつ……あらゆる選択肢を追求する」ことです。さらに、エネルギー供給における自己決定力を確保するためにCO2などの温室効果ガスを発電時に排出せず、純国産エネルギーと言われる原子力エネルギーの活用」として、ウクライナ情勢を利用しています。
しかし、日本よりはるかに多くのエネルギーをロシアからの天然ガスに頼っていたドイツが原発廃止を決めたのです。日本が原発廃止をできないはずはありません。さらに、警察と自衛隊が原発も守るとしていますが、超高速のミサイル攻撃から守れるはずはありません。相互互恵と平和追求の外交なしに安定したエネルギーを得ることは不可能です。
ウラニウムを原発燃料とするまでの多大なエネルギー使用、原発の建設と稼働までの莫大なエネルギー、さらに冷却水の海への排出、使用済み燃料の無期限の冷却など地球温暖化への悪影響には触れていません。また、原発は太陽光や風力などの発電よりCO2をはるかに多く排出することは明らかであり、カーボンニュートラルを言うのなら原発ではなく、再生可能エネルギー生産に資金を投入すべきです。
なんといっても、チェルノブイリ・福島原発事故での放射能物質拡散と、核のゴミの貯蔵など後の世代に計り知れない悪影響を与えます。
政府の原発方針に決定的に抜けているのが、福島原発事故で生じた健康障害問題です。あまりにも明白な甲状腺がん増加、次世代への影響としての周産期死亡や低出生体重児の大幅な増加などまるきり無視しています。事故が起こっても温暖化より悪くないと印象付けるためには、健康障害を否定することが不可欠なのです。ドイツの原発周辺での小児白血病の増加の証明(KiKK研究)がドイツの原発廃止に積極的影響を与えたように、この面でもいっそうの研究が求められています。