臨薬研・懇話会2023年5月例会報告 コロナワクチン接種後の体内にmRNAに関連するスパイクたん白を検出(NEWS No.573 p01)

mRNAワクチンがドラッグデリバリーシステム(DDS)でリポゾームのナノ粒子に包まれ体内に入った後、mRNAに関連するスパイクたん白がどのような影響をもたらすかは、ワクチン接種の安全性にかかわる重大な関心事である。

高知大学皮膚科の研究グループによる「mRNA COVID-19ワクチン接種後に生じた遷延性水痘帯状疱疹ウイルス感染症が病変部におけるmRNAがコードするスパイクたん白の存在と関連していた」の研究論文が、2022年9月にJournal of cutaneous immunology and allergy 誌に掲載された。1患者についての症例研究である。

ワクチンの有害事象としてmRNAがコードするスパイクたん白が皮膚病態に関連している可能性を示唆している。著者たちは今後の関連研究の発展で臓器に発現するスパイクたん白についても同様に証明できれば、mRNAによる臓器別有害事象の証拠となり得る可能性があると語っている。

原論文の要旨

COVID-19ワクチン接種後の広範な皮膚の有害事象が世界的に記録されている。mRNAワクチンとりわけBNT162b2を投与した男性における皮膚反応として、水痘帯状疱疹ウイルス (VZV) 再活性化は最もしばしば見られるものである。われわれはBNT162b2ワクチン接種後3か月以上の期間にわたって持続性皮膚病変を発現した1人の患者において、VZVウイルスとワクチンがもたらしたスパイクたん白の関わり合いについて調べた。

病変部位のVZVウイルス感染をPCR分析と免疫組織化学を用いて診断した。表皮の小胞内細胞、真皮の小胞のケラチノサイトと脈管内皮細胞において、COVID-19ワクチンがコードしたスパイクたん白が発現していた。発現したスパイクたん白が病原性を示すかどうかについては現段階では言えないものの、mRNAワクチンは免疫システムをかく乱させて持続的なVZV再活性化を引き起こす可能性がある。今後のワクチン有害事象の監視とスパイクたん白の役割の解明が必要である。

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ワクチン接種した64歳男性が13日後、下肢と手の両方に有痛性の皮膚発疹を発現した。

病変は2回目の接種後悪化した。膝窩(しっか、ひざのくぼみ)の壊死性小結節のパイオプシー所見は、好中球、白血球破壊(leukocytoclasia)、フィブリン滲出、血管外に遊出した赤血球、微小血栓を伴う炎症性潜入のある、中間から深部の真皮における壊死性表皮と基礎をなす閉塞性脈管障害を示していた。同時に皮下脂肪組織へのリンパ球潜入があった。

変性ケラチノサイトに対する抗VZV免疫染色が陽性であったことは、VZV感染症であるとの最終診断となった。VZVは、壊死性小結節と小疱疹から抽出したDNAを用いてPCRで確認した。バラシクロビルで皮膚病変の改善が見られた。われわれは患者を総合的に3か月に及ぶ、持続性多発性VZV感染症と診断した。

ワクチン接種と病変との関係を疑い、病変部位におけるスパイクたん白発現の有無を調べた。抗コロナウイルススパイクたん白抗体による免疫染色が、表皮の小胞内細胞および真皮の脈管内小疱疹細胞でスパイクたん白の発現を明らかにした。ワクチンに無関係の患者では小胞病変における同じ抗体によるシグナルは検出されなかった。一方VZV発現は明瞭に検出されたため、スパイクたん白発現は抗体の非特異的染色によるものではないと考える。

VZV再活性化はしばしば、高齢化、免疫抑制剤・HIV感染症・悪性腫瘍によって起こされる免疫不全状態のような免疫疲弊のもとで起きる。しかしわれわれの患者は、COVID-19ワクチン接種前に関節リウマチ治療をしていたにかかわらず、臨床的に免疫不全状態ではなかったため、われわれはT細胞免疫に対し重度な影響を及ぼしていると推測した。

患部におけるスパイクたん白の病理的な役割については分かっていないけれども、知られているもっともらしく思われる仮説は、RNABNT162b2に対するすべてのウリジンヌクレオチドのメチルシュードウリジンへの置き換えがRNAの安定化をもたらし、いろいろな細胞からコードしたスパイクたん白の長期間の産生を生み出し、皮膚を含む保護的免疫システムに関する微小環境に持続的な影響を与えるとの考え方である。われわれの研究の弱点はスパイクたん白の存在が免疫組織化学のみにより提示されていることがある。それゆえ、他の方法例えばウェスタンブロッティングにより、今後の吟味がなされる必要がある。

女性における最もしばしばみられる皮膚反応はCOVID腕であり (38.1%)、男性におけるそれは水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)再活性化 (20%)である。病理メカニズムは大きくはまだ不明のままである。これらの有害事象はCOVID-19 感染症それ自身に関係するものと類似していることにも注意が必要である。

例会参加者のディスカッションから

1)  SARS-CoV-2 感染によるものでなく、ワクチンのせいと考えていいのか。証明されているのか。

これについて報告者としては、証明されておらず、確立されるまでには今後のデータ蓄積が必要と考えています。

これについて報告者としては、証明されておらず、確立されるまでには今後のデータ蓄積が必要と考えています。
この論文においても、ワクチンの有害事象がCOVID-19 感染症それ自身に関係するものと類似していることに注意が必要であると書かれています。

この事情は他のワクチン接種後の有害事象の因果関係についても同じです。今回の論文は1症例の「症例報告研究」です。著者の気負いによる過大表現が若干含まれているにしても、「今後のワクチン有害事象の監視とスパイクたん白の役割の解明が必要である」の結論はその通りであり、本論文の価値を下げる程のものではないと考えます。

2) 性差をどのように考えるか。

以前ワクチンに含まれるポリエチレングリコールでの性差が問題になりました。今回「病理メカニズムは大きくはまだ不明のまま」と書かれていますが、性差が存在し今後の課題です。なお、「COVID腕」は接種した腕がパンパンに腫れ上がる症状です。

3) 水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)感染症の特徴は帯状に病変部が広がることにあるのでないか。今回呈示された症例は帯状に広がっておらず、様子が違うのでないか。

これについては、「帯状疱疹ウイルス(VZV)感染症」というよりは、「全身性水痘症」とした方がいいのではとの議論がありました。

4) スパイクたん白質が結合するのは ACE2であるが、論文や解説によって ACE2 と言ったり、ACE2受容体と言ったり、今回の論文でも両方の言い方をしていて混乱する。参考文献(Hoffmann)では、SARS-CoV-Receptor ACE2という言い方まででてくる。スパイクたん白質もspike viral protein だったり、スパイク糖たん白だったりする。用語の統一が強く望まれる。せめて1つの文献の中では統一してくれないかと思う。
これは全く同感です。

5) 著者が文献12として引用している文献では、アンジオテンシン変換酵素-2(ACE2)受容体「欠損」をSARS-CoV-2感染と重要な関連性を持つとしているが、逆ではないか。

これについて、ズーム参加されていた「薬のチェック」の濱六郎さんから説明をいただきました(薬のチェック速報版185 2020.3.23 COVID-19してはいけない5つのポイントその2参照)。
傷ができている場所からウイルスは入りやすい。ウイルスは酵素ACE2を使って体内に侵入: 全身組織に。ACE2は全身組織の細胞、血液・免疫細胞に存在。身体にストレスで傷ができると、ACE2が増加。

付記

引用文献12としてあげられている Paolo Verdecchia (Pergia)たちの European Federation of Internal Medicineのレビュー論文 (2020年4月出版)は、大きな視野からこの問題にアプローチした一読に値する総説と考える。

Verdecchiaたちは「ACE2: 天使か悪魔か?」の刺激的な小見出しをつけている。しかしレニンアンジオテンシン系も免疫系も複雑なバランスで成り立っており、天使や悪魔のどちらかであるはずはなく、可溶性組み換えACE2、アンジオテンシン1-7、ARBなどが何をもたらすかは予断を許さないものがある。今後も注視して行きたい。

(薬剤師 寺岡章雄)