“食”の問題シリーズその①〜「緑の革命」とは何だったのか?(NEWS No.573 p07)

今回から“食”の問題について、連載シリーズとして掲載させていただけることになりました。私が“食”について書きたいと思った1番の理由は、日々摂取する食べものが我々の身体作りや健康に非常に大きな影響を与えているからです。また、このわずか半世紀ほどで、特に食の“質”に関して、新たなテクノロジーとともに非常に大きな変化が起こっています。そのことについて、医問研の皆様に対しても情報を共有しておきたいと思っております。

記念すべき第一回目は、1940年代〜1960年代に世界を席捲した、「緑の革命」について詳細に述べていきたいと思います。

「緑の革命」は、1940年代から1960年代に、高収量品種の導入や化学肥料・農薬の大量投入により、世界的に穀物・農作物の生産性が著明に向上し、これまで以上に大量生産が可能になったことを指します。この「緑の革命」の背景にはロックフェラー財団など、ユ◯ヤ金融財閥たちからの潤沢な資金提供がありました。第二次世界大戦末期の頃から、ロックフェラー財団は(食糧支配戦略の一環として、)ロックフェラー財団の御用農学者・植物学者であったノーマン・ボーローグ博士らを使って高収量品種の農作物の研究を始めていました。

まず、米国政府とメキシコ政府がタッグを組んで国際農業研究機関が作られ、様々な品種を掛け合わせて開発された高収量の小麦やトウモロコシがメキシコ国内で生産されるようになり、その結果、大量の穀物輸入国であったメキシコは大幅な食糧増産に成功しました。短期間で小麦の生産量は3倍、トウモロコシは2倍まで跳ね上がり、1950年代後半にはメキシコ国内で小麦の自給が可能となりました。その後、ボーローグ博士らの研究グループを母体として、1963年に「国際トウモロコシ・コムギ改良センター」が、1960年にはフィリピンでIRRI(国際稲研究所)も設立されました。この「緑の革命」は、途上国の食糧不足に対して化学的農法により大増産できるとして、ロックフェラー財団を含む資本家・投資家からの潤沢な資金が投入され、大々的に全世界に宣伝され、ボーローグ博士もノーベル平和賞を受賞したことで、大成功を収めたかに見えました。しかし、「緑の革命」は、1970年代に入ると食糧増産に翳りが見え始め、70年代前半にはインドや中国、東南アジアでも病害虫の大発生や新品種の干ばつに対する抵抗力不足により不作が認められるようになっていきました。新たに開発された高収量のハイブリッド品種そのものに大きな問題があったからです。

実は新品種の穀物は、化学肥料と農薬の効果を最大限生かすよう改良されたものでもあり、大量の農薬や化学肥料に加えて大量の水が必要であり、さらに農耕機具一式を購入しないと農業自体が成り立たないビジネスモデルの元で開発されたものだったのです。当時のジョンソン米大統領は、この新しいビジネスモデルを世界中に広めるべく、①科学的(化学的)農法の導入に合意すること、②米国投資家の農業部門への参入を許可すること、などを条件として米国(多国籍企業)から途上国への食糧援助を行いました。その結果、途上国は大量の高収量品種の種子や農薬や化学肥料、最新のトラクターや地下水を汲み上げる農機具に至るまで、その全てを米国(多国籍企業)から購入することになりました。そのおかげでモンサント(2018年バイエルが買収)やデュポン、シンジェンタなど、種子・化学薬品メーカーは莫大な利益を得ることに成功しました。その一方で、地下水を大量に汲み上げ、多くの農薬や殺虫剤や化学肥料を投入することによって、土壌中の微生物や植物・土壌と共生関係を築いていた有用な虫たちも死滅してしまい、土壌の劣化が引き起こされ、穀物自体の害虫や病気に対する抵抗性までもが奪われてしまいました。在来種の3倍もの水を必要としたために、灌漑による灌水と塩害が広大な農地を不毛の荒地に変えてしまったのです。

この「緑の革命」の失敗について、インドの物理学者であり哲学者であり環境活動家でもあるヴァンダナ・シヴァ女史は、著書「緑の革命と暴力」の中で、緑の革命の欺瞞とインドにもたらされた甚大な被害や後遺症について詳細に述べています。「緑の革命」は、貧しい農家の生き残りをかけて多額の借金までして多国籍アグリ企業からハイブリッド品種の種子や農薬・化学肥料・最新農耕機器まで購入しましたが、それらによる土壌の汚染により長期的には自身の土地すら維持できなくなってしまいました。莫大な借金に絶望し、モンサント社の除草剤「ラウンドアップ」を自分で飲み干して自殺するということが起こったのです。インドでは農業従事者の自殺が社会問題となり、2011年1月17日の「Times of India」によれば、2009年におけるインド全国での農業従事者(のみ)の自殺者数は1万7368人にも及び、2008年に比べて7%増加したことが報告されています。

「緑の革命」は短期的に見れば、品種改良された穀物や農作物の収量アップに繋がりましたが、中長期的には大量の水と化学肥料と農薬を使用したことで土壌は衰弱し、農地の生態系を狂わせ、結果として農作物の収量も減少することになりました。さらに、借金まみれで生活に困窮した農家たちの生命までも奪ってしまうことになったのです。

さて、次回は「緑の革命」に引き続いて「GMO革命」について書きたいと思います。乞うご期待!!

(医療法人聖仁会松本医院 院長 松本有史)