<本の紹介>『ニュースの数字をどう読むか―統計にだまされないための22章』(NEWS No.574 p06)

原題は「How to Read Numbers」、直訳すると「数字の読み方」、コロナ渦中の’21年上梓、日本語訳は’22年2月発行です。

トム氏は英国のサイエンスライター・作家で、王立統計学会からの受賞歴があります。

デイヴィッド氏は経済学部の先生です。

北澤氏は医療ジャーナリスト・京都薬科大学客員教授で、‘15年4月医問研ニュースで紹介した「過剰診断―健康診断があなたを病気にする」の翻訳も担当されていました。本書では「訳注」が豊富に本文中に添えられることで、医学用語や英国の事情に通じていない読者の理解を深めているように思われます。

序文は「数字は冷淡で、感情がありません。」から始まります。確かに、数字を根拠にした説明・説得は恣意や思い込みによるものではなく、科学的で真実に近いとのニュアンスがただよいます。

「数字がメディアでどのように用いられているかについて、そして数字がいかに間違い、また誤った印象を与えているかについて」現実のニュースをもとに展開されていきます。

「人を誤解させたり惑わせたりするには数字を使うのが簡単」「数字を用いた論争は、私たちの生活や、民主主義への参加能力に影響を及ぼしている」「数字がどのように作られ、どのように使われ、そしてどのように間違うことがあるかを理解する必要があります」

著者らは「どの数字が、どのような場合になら信用できるのかについて、よりよい判断を下す手助け」を詳述しています。

本書の雰囲気は興味深い目次からでも感じ取れます。

第1章 数字はどうやって人を欺くのか—―各部分では下がった再生産数が全体では上がってしまうわけ

第2章 体験談というエビデンス —―「熱いコンロに触ったら火傷をする」と「コーヒーでがんが治る」の違い

第3章 サンプルサイズ—―良い推定値を得るためには何人必要か

第4章 サンプルの偏り—―バスケットボール大会の会場脇でイギリス人の身長を測定すると

第5章 統計学的に有意—―その結果がまぐれでないとしても、実際に意味があるとは限らない

第6章 効果量(エフェクトサイズ)—―寝る前に

ケータイを見ると睡眠時間が減る、でもどのくらい?

第7章 交絡因子—―アイスクリームがよく売れる日に溺死が増えるのはわけがある

第8章 因果関係—―何かが何かの原因であると言うのは、じつはけっこう難しい

第9章 それは大きな数ですか?—―分母が分からなければ、大きいか小さいかは分からない

第10章 ベイズの定理―「95パーセント正しい検査で陽性」は「陽性の確率が95パーセント」ではない

第11章 絶対リスクvs相対リスク—―「ベーコンを食べると大腸がんのリスクが20パーセント増」が意味するもの

第12章 測っているものが変わった?—―「5年間にヘイトクライムが2倍」は本当か

第13章 ランキング—―元になったスコアやデータの取り方を知らなければ、ほぼ無意味

第14章 それは先行研究すべてを代表するものですか?—―過去の研究の文脈に位置付けることなくして新しい研究の評価はできない

第15章 目新しさの要求—―科学の学術誌が面白い研究結果を求めることの弊害

第16章 いいとこ取り(チェリーピッキング)—―データを見てストーリーが組み立てられる部分をピックアップすればしめたもの

第17章 未来を予測する—―降水確率5パーセントなのに雨が降ったら、その予測ははずれ?

第18章 予測モデルにおける仮定—―感染予測のアウトプットは、アウトブレイク初期とロックダウン後では違う

第19章テキサスの狙撃兵の誤謬—―実際に何も起こっていなくても起こっているように見せられる

第20章 生存者バイアス—―成功した例だけを見ても何も分からない

第21章 合流点バイアス—―喫煙がコロナを予防する?調整すべき変数を間違えるとどうなるか

第22章 グッドハートの法則—―数字が目標になってしまうことで生じる誤ち

最後には「数字を注意深くかつ責任を持って使う方法、数字自体が確実に公正で正確なストーリーを語る方法」としての「ジャーナリストのための統計スタイルガイド」の提示があります。

著者は「まず最初の8章を読むのがベスト」、でも、拾い読みもOK」と述べています。

「訳者あとがき」には、マスコミ報道の数字によって私たちの持つ評価基準がどのように誘導されていくかを新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の抗体カクテル療法を例にして示されています。また、著者らはどんなお人柄かなぁ~と思い浮かべつつ読了できた日本語訳には「感謝!」です。

(小児科医 伊集院真知子)