講演報告:環境、経済ともに未来のない原子力発電 岸田回帰政策の愚かさ(NEWS No.574 p08)

奈良市民放射能測定所(はかるなら)の10周年記念集会が5月に開催された。過ちを繰り返さないための健康・生活・地域破壊実態の検証を無視し原発回帰を進める岸田政権、記念講演ではその愚かさが明らかにされた。講師は京都で反原発の闘いを進めておられる原子力研究者で元高校物理教師の市川章人氏。解りやすい原子力基本法改悪、GX電源法なども含めた包括的なお話の中で、特に印象に残った現在の新しい問題としての戦時下における原発,気候温暖化対策との関係についての感想を報告。

戦争が鮮明にした原発の破滅性

原発大国ウクライナでは、ロシア軍によりチェルノブイリ、サポリージャ原発が占拠、攻撃された。他の発電システムと異なる特別の脆弱性(後述)を持つ原発は、偶発的・意図的によらず外部電源喪失など冷却システムの不具合により重大事故が発生し、放射能大量放出のリスクがある。この件に関し、日本ではイスラエルによるイラク原子炉爆撃後の外務省シンクタンクの報告書(1984)がある。極めて容易な攻撃でも外部電源は破壊されること、さらに爆撃、ミサイルの3シナリオを推定。最大で急性死1万8千人、急性障害4万1千人、晩発性ガン死亡2万4千人と試算されたが、一般国民には反原発感情を考え「部外秘」とされてきた。原発は稼働していなくても、使用済核燃料保管プールが攻撃され、冷却が中断すると同様の惨事が起こる。岸田政権はウクライナ戦争に乗じて軍事費43兆円増、トマホークほか攻撃用兵器導入を目論んでいるが、「武力攻撃に対する(原発への安全対策上の)規制要求はしていない」(山中伸介原子力規制委員長答弁)と、国民保護からは本末転倒である。

一方、オーストリアは中立を堅持し、NATOには入らず、1999年「原子力なきオーストリア」を憲法条項に制定し、反原子力・環境政治を世界に広げる先導的な役割を果たしている。昨年にはエコ・アジール32団体が共同で「戦争は気候危機を利する・・軍備増強は戦争と暴力を終わらせない。・・武器産業だけで、世界の温室効果ガスの約2%を占める」との声明を出した。ドイツの脱原発完了も欧州での確実な動きである。推進の仏電力アレバでは新型炉建設費が4倍に膨らみ屋台骨が揺ぎ、提携の三菱重工に波及している。

まやかしの気候危機対策

日本では原発はクリーンとの宣伝とともに、再生可能エネルギーへの転換、投資が妨げられている。原発は建設から廃棄物処理までの、ライフサイクルでのCO2総排出量は石炭火力に次いで多い。またその温排水は、大気のCO2を吸収して温暖化を抑制する海洋の作用を阻害する。老朽原発の再稼働は次々と重大トラブル、人為ミスを繰り返し、使用済核燃料は再処理の展望がない中、貯蔵の限界に近づいている。百万KWの原発システムは、配管170㎞、ケーブル1,700㎞、モニタ―2万か所、弁3万台、ポンプ360台、モーター2万か所などから成り、破損、中性子劣化で他の発電システムに比べ桁違いに脆弱である。地震多発で被害が頻発する中、直後に発せられる決まり文句の「原発に異常なし」は疑わしい限りである。

一方、電力料金に関わる発電原価は、再生可能エネルギーが原発よりコストが低くなっており、原発にかける莫大な費用と時間の浪費が、再生可能エネルギーへの転換、拡大の最大の障害となっていることがよく理解できた。脱原発の展望に確信をもつことのできる講演内容であった。(詳しい内容ははかるならホームページをご参照のこと)

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