臨薬研・懇話会2023年8月例会報告②新型コロナ流行期におけるワクチン効果の検証 非薬物的介入策(Non pharmaceutical Interventions, NPIs)のヒントはあるか(NEWS No.576 p04)

2020年1月国内患者発生以降、個人生活での手洗い、マスク、換気、三密回避が励行され、人流抑制の緊急事態宣言などがあった。2021年2月新型コロナワクチンの接種が医療従事者から高齢者、全国民へと開始された。この期間、小児を中心とする感染症の流行の減少がみられた(既報)。

1. 予防接種定期化後の水痘の発生状況

水痘は全国3,000か所の小児科定点医療機関から毎週報告され、冬から春にかけ流行を繰り返していた(2009~11年の定点当り年平均1.41)。2014年の定期接種導入後(2016~18年同0.37)に減少し、コロナ流行期に入るとそれを下回っている(2020~23年28週まで同0.09)。2014年接種定期化以降については、国立感染研の報告がある。

年齢別年間報告数の推移をみると2014年以降は5歳未満が減少、致命率が高く小児期帯状疱疹発症リスクとなる1歳未満もほぼ同等に軽減しており、ワクチンの間接効果とされている。

一方、2回接種を受けた7歳を含む5~9歳群での報告は横ばいで推移し、水痘流行の中心的年齢となっている。ワクチン効果の持続に問題ないか、この年台をも減少させているコロナ期の要因の解明と、予防策の可能性の検討が必要である。

3.ロタ胃腸炎発生推移と予防接種定期化

小児科定点からの報告では、毎年11~12月に急増し2~5月になだらかなピークをつくる。

病原体サーベイランスでは、ロタ検出のピークは2~5月に重なり、11~12月はノロウイルス検出のピークに重なっている。2009年WHOがワクチンの定期化を各国に推奨、日本では2011年から市販され任意接種が始まった。その後、各市町の助成により接種率は60%を超え、重症下痢症、入院率の減少を認めるようになった。入院率では、未接種の3~5歳児での低下が集団免疫効果なのか、一方5~10歳の年長児では差がなかったなど、ワクチン評価は分かれている。このような中、2022年10月からのロタワクチンの定期接種の開始が決まった。その直前の1月に新型コロナ国内初患者が発生して、社会生活全体がコロナ対応に激変した。定点当り
年平均報告数は2019年の0.19から2020年は0.01と20分の1近く減少した。この2年間の推移を拡大してみると、定期接種が始まる10月1日の半年前から減少が認められており、引き続く2021~23年に流行がほとんどみられていないのもワクチンの効果とはいい難い。ロタウイルスの主な感染経路はヒト間で起こる糞口感染であるので、コロナ対応で日常生活に習慣化した手洗い、保育所などの衛生改善などの要因解明、および今後の推移の観察が必要である。

4.インフルエンザ発生とワクチン量の推移

我が国のインフルエンザの発生は、毎年11~12月ごろに始まり、翌年の1~3月頃ピークとなり4、5月にかけて減少する。ウイルスにはA,B,Cの3型があり流行的広がりはAとBである。
インフルエンザワクチンは1960年から学童への集団接種が行われていたが、1994年中止となり、阪神大震災後から避難所の高齢者への接種再開から、ワクチン供給量、使用量は急速に回復、増加してきている。しかしインフルエンザワクチンの量は毎年の流行パターンにほとんど相関はみられていない。推移をグラフでみる限り、ワクチンの使用が中断された1994~97年と年間2000万本を超えた時期の発生パターンは変わりがない。

また2015年の3価から4価ワクチンへの変更ではむしろ流行は拡大しており、2019年までは効果があるとは全くいえない状況であった。

2019年の流行は例年のパターンとほぼ同様であった。

19年と比べコロナ期に入る20年を細かくみていくと、第1週の立ち上がりは変わらないが、2月のピークは年間平均報告数が19年の7.27から20年は2.20と3分の1に減少し、収束の時期は第8週頃と同じ様であるが、ピーク全体はなだらかであった。日本感染症学会は20,21年の夏に、冬に向けての提言を出した。前シーズンのインフル流行が小規模のため、社会全体の集団免疫が低下しており大きな流行が起こるリスクがあるとし、新型コロナとインフルの同時流行、混合感染による重症化予防のために、例年通りインフルエンザのワクチン接種を勧めた。2018年以降の定点からの年平均報告数の推移をみると21年および22年の冬季シーズンの報告数は0.00と0.10に止まり流行は全くみられなかった。2022年秋から冬にかけ第7波の収束の兆しがみえコロナの5類引き下げ、療養期間の短縮などの動きの中でコロナ第8波の拡大とともに、インフルエンザの報告の増加もみられたが、その流行の規模・形態は20年のシーズンとほぼ同程度であるが、春以降の収束は長引玖傾向にあり今後の推移を注意深く見守る必要がある。

5.考察

新型コロナ流行期における5類感染症の推移を、定点観測報告数で分析を試みた。当初、感染症全般の減少の要因として、コロナ流行による受診抑制との見方もあったが、細菌性髄膜炎や突発性発疹などには報告数の減少はみられておらず、定点報告自体は機能していたと考えられる。
ワクチンの普及している水痘、ロタ胃腸炎は、任意接種から定期接種の変遷のなかで、流行抑制効果もみられていたが、コロナ期における減少は、ワクチンによる効果を大きく上回っている。一方、インフルエンザは数十年にわたり毎年何千万人にワクチンを接種してきているが、効果がみられたといえる年を示すことは全くできない。このようなワクチン接種とインフル流行の関係の中で、コロナ流行期中のインフルエンザの流行がほぼゼロに抑えられた現象の解明は重要である。
当初、未知の感染症として新型コロナウイルスにとられた非薬物的介入策(Non Pharmaceutical Interventions, NPIs)としてマスク着用、手洗い、3密回避、換気などの中にヒントがあると思われる。従来より、うがい、手洗い、人ごみを避けるなどは、先人の経験の中で言い伝えられてきたことである。インフルエンザワクチンの様に、解りきった無駄なワクチン一辺倒の思い込みに流され続けることは止めにしたい。保健所など公衆衛生機能を強化し、信頼できるサーベイランスの確立の下に、ウイルス・病原微生物と新たに共存できる生活の手段を見つけていきたいものである。

入江診療所  入江紀夫