福島汚染水海洋放出を糾弾する!(NEWS No.576 p07)

岸田首相は8月20日、東電福島第1原発(1F)を視察し、原発「処理水」(汚染水)の海洋放出の時期を判断すると述べ、22日、日本政府は関係閣僚会議にて、1Fでタンクに保管されている多核種除去設備(ALPS)「処理」汚染水の海洋放出を、8月24日にも開始することを決定。東電は24日、1Fの汚染水の海洋放出を開始。東電は今年度、約3万1200トンの汚染水を4回にわけて放出する。放出期間は30年程度に及ぶ見通しとする。東電前などでは反原発団体などが抗議の声を上げた。

なお、ALPS「処理水」には、トリチウム以外の放射性物質も、ヨウ素129、ストロンチウム90、ルテニウム106、テクネチウム99、セシウム137、プルトニウム239、炭素14、カドミウム113mなどが基準を超えて残留しており、トリチウムにだけ問題を矮小化させない視点も必要だ。

国際原子力機関(IAEA)が7月にまとめた報告書は日本の放出計画を「国際的な安全基準に合致している」と結論づけたが、中国政府や太平洋島しょ国などは放出へ強く反発している。IAEAは原子力の利用を促進する立場の機関であり、また、IAEAの安全基準と照らしても、少なくとも「正当化」、「幅広い関係者との意見交換」に適合していないはずだが、日本政府の見解をなぞるような結論となっている。

放射線被曝による健康被害の本態は内部被曝による。トリチウムは基本的には体内動態で水素として動き、β線を出す。トリチウムの飛程は約10μm、ほぼ細胞一個分だ。このため内部被ばくの影響が大きい。トリチウムは体内では通常の水素として動くので、トリチウム水の場合は10日前後で代謝されるが、有機結合型トリチウムとなったものは人体の全ての生成物の化学構造式の中に水素として取り込まれる。さらにトリウムは食物連鎖の過程で、濃縮し、さらに生物濃縮したものが人間の体内に摂取される。元素は⽔素と同じ性質を持ち、通常は気体かトリチウム⽔として存在する。このため、世界中の原発施設周辺で事故が起こらなくても、健康被害が報告されているのは、トリチウムが関係していると考えられる。ドイツの原子力発電所周辺の癌と白血病の調査(KiKK 調査)によると、原子力施設周辺5㎞以内の5歳以下の子どもで、白血病の相対危険度が5㎞超に比べて2.19、がん発病の相対危険度は1.61、原発からの距離が遠くなると発病率は下がった。

またトリチウムは発がんだけではなく、いろいろな健康被害にも関与している可能性が示唆されている。カナダでは、トリチウムを大量に出すCANDU原子炉(重水炉)が稼働後、住民の中で新生児死亡の増加や白血病の増加。 調査の結果、トリチウムが関与していることが判明したため、カナダのトリチウムの排出基準は20Bq/Lと極めて少ない基準としている。トリチウムの規制値は日本は6万Bq/L、カナダは20Bq/L と桁違いだ。

水とトリチウム水は沸点が異なり、トリチウム水は1.5℃高いので、通常の水は沸騰させたのち水に戻し、沸点の高いトリチウム水は残るので、それをガラス固化などして地上で保管管理すればよいとして、技術者や研究者も参加する「原子力市民委員会」は、海洋放出や大気への放出ではなく、「大型タンク貯留案」と「モルタル固化処分案」を提案している。 体積は6000分の1となると言われている。福島第2原発は廃炉が決まっており、保管するための十分な敷地はある。 また事故を起こした原発の廃炉も計画されているが、デブリを取り出すためのロボット開発のメドは全く立っていない。出続ける地下水対策も不十分で、この先ほぼ永遠に海洋放出することは緩慢な殺人行為となるともいえる。

1Fの汚染水の海洋放出計画をめぐり、林芳正外相は21日、放出への反発を強める中国を念頭に、「悪意ある偽情報の拡散に対しては必要な対策をとる」と述べ、批判を封じようとしている。汚染水放出によって、風評被害どころか、内部被ばくによる発がんなどの健康障害は避けられない。

今般の汚染水海洋投棄については「海洋放出ありき」のプロセスが強引に進められた。政府・東電は「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」との約束を反故にした。2018年8月以降、公開の場での公聴会は一切行われなかった。漁業関係者をはじめ国内外での反対の声を聞き入れず、内部被ばくの危険性を国外にもばらまく今回の決定、汚染水海洋放出の強行に強く抗議する。

精神科医 梅田