食の問題シリーズ その④ 〜危険なGMOとその規制緩和〜(NEWS No.577 p06)

前回「GMOの安全性」について取り上げました。結論としてGMOは安全とは言えず、従来の農作物と比べて「実質的に同等」とは決して言えないということでした。前回挙げた内容以外にも、GMOには未だ解決されていない様々な懸念点があります。例えばGMOに組み込まれている「プロモーター遺伝子」(あるタンパク質産生を促すスイッチのような役割をする遺伝子)がターゲット以外の遺伝子にも働き、他のタンパク質を新たに過剰に産生させてしまう可能性があります。1989年には、米国農務省研究センターが中心となって、約8000個の豚受精卵に、ヒト由来成長ホルモン遺伝子を挿入する実験が行われました(V.G.Pursel et al. Science. 1989)。結果は、約8000個の受精卵から、たった43例のGMブタしか作成できませんでした。そして、生まれてきたブタには関節炎が多発し、立ち上がれないほどという特徴もありました。このような異常所見から、遺伝子挿入した成長ホルモン自体やプロモーター遺伝子が代謝系や免疫系にも思わぬ影響を及ぼした可能性が考えられます。他にも、ニュージーランドのアグリサーチ研究所が、GM動物で出産率の低下・発育不全や奇形・呼吸器異常などが認められたことを報告しています(Green Party of Aotearoa New Zealand.2008/9/4)。これらは、生命が「複雑系」であり、たった一つの遺伝子操作でも、生命全体では予測もつかない反応が起こってしまう可能性があるということを明確に示しています。さらに、スウェーデンのイエテボリ大学で「GMサケの生態学的影響評価」プロジェクトの一環として行われた研究で、GMサケが環境中に放出された際の、生態系や人間の健康への影響に対する懸念が示されています(European Research Headlines.2009/9/16)。この「GMサケ」は成長ホルモン調節遺伝子を改変し、成長が早く、病気への耐性を得るようにされていますが、そのような魚は身体が大きくなりやすい分、環境中の毒素の蓄積も多く、成長ホルモン濃度も高くなります。このようなGM魚の人体への影響が懸念されるのは当然ですし、自然環境に放たれた場合に自然魚より生存率が高くなる可能性があり、生態系にも影響を及ぼす可能性があることが指摘されています。すなわち、GMOは人体だけではなく、生態系や環境にも悪影響を与える可能性があるということです。そのことをよくわかっている専門家・有識者、そして様々な市民団体や行政機関(の一部)の人たちは、これまでGMOやゲノム編集食品に明確に「NO!」を突きつけてきました。

しかし、モンサントを代表とするGMOを作成してきたアグリバイオ多国籍企業は、利害関係のない第三者機関や研究者には種子の提供を拒む一方で、自身のコントロール下にある政府機関に限って、短期間のテストのみを行い安全性をアピールし、激しいロビー活動によってその承認や規制緩和を得て、世界中にGMOの販売を促進してきました。その甲斐あってか、各国政府は近年こぞってGMOやゲノム編集の規制緩和を行なってきました。例えば、米国・オーストラリア・ブラジル・アルゼンチンでは、ゲノム編集を含めて種子の遺伝子組み換え・編集に関して、外から別の遺伝子を挿入しない限り、規制は要らないという立場をとっています。同様に、ロシアでも2019年に遺伝子編集動植物を開発する巨大プロジェクトが立ち上げられ、10年で17億ドルもの国家予算が付けられています。また、これまで「遺伝子操作された動植物を厳しく規制する」という立場だった欧州委員会(ゲノム編集検討会)ですら、企業ロビイストやビル・ゲイツなどバイオ技術の急先鋒によって送り込まれた御用学者たちに毒され、今後はゲノム編集作物に対する規制を緩めていく方針を固めています。ここ日本でも2017年度に実施された遺伝子組換え表示に関する検討会の内容に基づいて法改正が完了し、新たな制度が本年4月から施行されています。これにより、実質的に「遺伝子組み換えでない」という食品表示ができないことになり、今後日本の食品市場には、さらにGMOが流通しやすい状況が作られていくことになると思われます。

さて、ここまで数回に亘って、遺伝子組み換え作物=GMOについて書いてきました。ここまで読んでいただいた方であれば、GMOなど不自然な食品を食べたいと思われることはないとは思いますが、実は「緑の革命」から始まった“食の支配”においては、GMOなどまだまだ序の口です。次回以降は、ゲノム編集と日本の食の危機について書いていきたいと思います。

医療法人聖仁会松本医院 松本有史