臨薬研・懇話会2023年11月例会報告 「ホーソン効果」について考える(NEWS No.579 p02)

臨薬研・懇話会2023年11月例会報告
シリーズ企画「臨床薬理論文を批判的に読む」第78回 (2023.11.9) 報告
「ホーソン効果」について考える

薬事日報紙に寄稿連載されている「エビデンスのピットホール」(青島周一氏)は、2023年10月11日号で「No.38他者の注目がもたらすバイアス」のタイトルで、BMC Oral Health. 2023 Jun2; 23(1); 349に掲載された “The effectiveness of topical fluoride agents on preventing development of approximal caries in primary teeth: a randomized clinical trial. 乳歯の隣接面う蝕の進行予防に対する局所フッ化物塗布剤の有効性: ランダム化臨床試験”の最新文献を取り上げています。

なお、局所フッ化物塗布については安全性面などから問題点が指摘されていますが、ここでは別個の問題として扱わせていただきます。

このバイアスは「ホーソン効果」とも呼ばれていますが、青島氏は、「臨床試験におけるホーソン効果の実在性については議論の余地もあります。(中略)ホーソン効果と名指される単一の現象は存在しないという指摘もあり、プラセボ効果や社会的望ましきバイアスとの区別も曖昧です」として、2001年に Journal of  Evaluation in Clinical Practice誌に掲載された「Hawthorne effects and research into professional practice (ホーソン効果と専門的実践のための研究)」という文献の存在について記しています。

今回はこの2つの文献を紹介し、「ホーソン効果」について考えます。

1. BMC Oral Health. 2023 Jun2; 23(1); 349論文

“The effectiveness of topical fluoride agents on preventing development of approximal caries in primary teeth: a randomized clinical trial. 乳歯の隣接面う蝕の進行予防に対する局所フッ化物塗布剤の有効性: ランダム化臨床試験”

タイ中部に位置するノンタブリ県の6つの公立学校の児童を対象とした。オペレーター (操作者。データを扱う人の意味ではないかと思われるー引用者) は介入群についてランダム化されていなかったが、すべての参加者、両親、および評価者はランダム化されていた。

この 18 か月間の3群並行群ランダム化臨床試験は、乳歯の隣接面う蝕の進行を予防する2 種類のフッ化物局所塗布とプラセボ対照の有効性を比較することを目的とした。intention-to-treat法(ITT法、治療企図解析。第 3 相試験を⾏う時に、どのような事情があろうとも割り付けられた群で解析を⾏うこと。研究計画書通りに治療が⾏われなかったとしても解析対象に⼊れる。)を採用した。近似う蝕の発生予防におけるフッ化物外用剤の有効性と他の変数の影響をカイ二乗検定により解析した.多段階ロジスティック回帰分析を行い,18 か月後の追跡調査におけるフッ化物歯面塗布剤の近似う蝕発症予防効果を相対的に検討した.

ベースライン時に、2,685本の健全歯または近心面の初期窩洞を有する190人の参加者を募集した。参加者の人口統計学的背景、口腔衛生関連の習慣、う蝕経験に3群間で差は認められなかった(P>0.05)。18か月後、155人(82%)の参加者が試験に残った。3グループにおける近似う蝕の発生率は、それぞれ24.1%、17.1%、27.2%であった(P<0.001、χ2検定)。交絡因子およびクラスタリング効果を調整した後、マルチレベルロジスティック回帰分析を行ったところ、う蝕発生率に3群間の差は認められなかった(P>0.05)。歯の種類とベースライン時のう蝕病叢の程度がう蝕発症の有意な因子であった。

結論: 交絡因子およびクラスタリング効果を調整した18か月後の追跡調査において、5%NaF 、38%SDF (フッ化ジアンミン銀)、プラセボのいずれを半年に1回塗布しても、近心う蝕の発生予防に統計学的有意差は認められなかった。

考察: う蝕リスクの高い小児において、より頻繁なフッ素塗布による近似う蝕予防のための局所フッ素塗布の有効性を保証または否定するためには、今後の研究が必要である。

フッ化物外用剤の有効性が対照群と有意差がなかったもう1つの可能性は、ホーソン効果である。参加者全員が定期的に検査を受けることを認識していたため、全員がより好ましい行動習慣を確立した。

2. J Eval Clin Pract誌 2001   John D Holden (UK) 文献

Hawthorne effects and research into proffessional practice (ホーソン効果と専門的実践のための研究)

概要: 1930年代のホーソン研究は、現場の行動を理解することがいかに困難であるかを示した。監査 (audit)のような職業的パフォーマンスを向上させるための介入に関する研究は、そのような方法の使用を検討している人々にとって有益な情報を提供することができる。しかし、判断に取って代わることはできない。特に、「ホーソン効果」と呼べるような単一の現象は存在しない。対象をさまざまな視点から検討する三角測量のプロセスは、対照試験のような単一の方法を用いるよりも、ホーソン効果の問題を良く克服できるかもしれない。

考察:  臨床試験では、結果の解釈におけるバイアスを最小限に抑えるため、二重遮蔽化が望ましい。人間の行動に関する研究では、このようなことは通常不可能であるため、プロフェッショナルのパフォーマンスを理解し向上させようとする人々は、結果をどのように解釈するのが最善かを決定しなければならない。その際、ホーソン効果で結果が説明できるかどうかを問うのが普通である。しかし、ホーソン効果とは何なのかが不明確であるため、どのようにコントロールするのが最善なのか、あるいはまったくコントロールしないのかについては、かなりの疑問が残る。

「ジョン・ヘンリー効果」がまた、より望ましくない治療を受けた回答者が代償的対抗心を示すことについて述べている(Cook & Campbell 1979)。対照群が実験に気づいているときに何が起こっているのかを知ることは難しい。

専門職のパフォーマンスを向上させることを目的とした監査のような介入は、最初に見かけられるよりも複雑であることはほぼ確実であり、その結果の解釈にも同様に判断が必要となる。

ホーソン研究とは、シカゴ郊外のホーソン工場で行われた一連の調査である。労働者の作業能率には客観的な職場環境よりも職場の人間関係が重要とした。研究手法や結果の解釈を巡っては批判も多く、知名度こそ高いが評価は定まっていない。関連用語に社会科学の「観察者(観測者)効果」があり、見られていると意識した時に行動が変化する現象を指す。医学の試験で二重遮蔽法が使われるのは、これに関連した「観察者バイアス」を避ける目的がある。

当日の参加者の議論では、あいまいな「ホーソン効果」が2020年代の今でも論文上で論議されている問題点とともに、目立った害はなく、薬物治療の適切化に向けて患者との話し合いで活用できる側面もあるのでないかとの発言もあった。

薬剤師・MPH(公衆衛生大学院修士)
寺岡章雄

[編集者の補足:ホーソン効果Hawthorne effectとは、ごく大雑把にいうと、治療を受ける者が信頼する治療者(医師など)に期待されていると感じることで、行動変容を起こすなどして、結果的に病気がよくなる現象をいう。ある治療が有効であると見えるときに、効果の要因として、平均への回帰+自然経過+Hawthorne効果+プラセボ効果+治療効果といった複数の因子が作用していることを理解して、治療効果を最大限にする努力が治療者には求められる一方で、治療効果判定にはできる限り二重遮蔽ランダム化比較対照試験が必要と考える。]