福島小児甲状腺がんは異常多発であり原因が放射能汚染によることは明らか(NEWS No.579 p04)

アジェンダに宗川氏の【「福島小児甲状腺がんの「通常発症」と「被ばく発症」について】のインタビュー記事を見た。宗川氏の福島被害者に対する継続的な支援の活動に畏敬の念を持ち、教えも受けた私であるが、インタビュー記事の一部に違和感を持った。福島小児甲状腺がんの先行検査の多くは放射線によらない事故前からの「通常発症」であるとし、先行検査での小児甲状腺がん115例中通常発症が59例とした。先行検査に次ぐ一回目の本格検査は放射線による発症が多いとしたが、それでも71例中29例は通常発症によるとした。宗川氏が最も強調したかったのは本格検査での放射線影響であることよく理解できるが、福島の小児甲状腺がんは多いようでも原因は放射線ではなく、スクリーニングで見つかったものとする福島県民調査会議の見解を補完するものではないかと私は危惧する。

宗川氏の意見を見てみる。もし原発事故の起こった3.11以前には一人も小児の甲状腺がんはいないとしたらチェルノブイリでは年齢の低い方が放射線感受性は高いので、福島でも発症率はむしろ低年齢の方が高くなってもよい。福島ではそうではないのだから先行検査では通常発生が多いのではないかという発想が出発点だという。

現実のデータはどうか。(図1)はチェルノブイリ事故後4年間(この間は甲状腺のスクリーニング検査は行われていない)と、福島先行検査実施の3年間(スクリーニング検査実施)の甲状腺がん診断数を、事故時年齢別に筆者がまとめたものである。これを見ると、事故後3-4年の福島とチェルノブイリの年齢分布はほとんど変わっていない。この時期特から低年齢を含め、両地域とも、本来ほとんど甲状腺がんの発症のない18歳以下の年齢での事故後の多数発症がみられることがわかる。

(図1)

増加の原因は、放射線被ばくによる多発かスクリーニング検査でもともとあったがんを見つけたかのどちらかであろう(宗川氏の語る通常発生という言葉で表現できるかもしれない)。チェルノブイリでは原発事故後に出生した人を加えた発症をみると、甲状腺がんの発生は事故前の水準でしかない。(図2)はUNSCEAR2008に掲載されたベラルーシのデータであり、0-9歳、10-19歳の順にがんが減少している。また、医問研や津田氏らの文献調査でも事故後の出生者や非汚染地域での発症は皆無であった。

(図2)

次に福島と全国とを比較してみる。e-Statからの甲状腺がんについての基礎データを整理してみる。(図3)の実線は福島、点線は全国データからの年齢群別罹患率をまとめたものである(2017年以降は集計方法が変わり、それ以前とは単純な年比較はできないと)。0-9歳については福島も含めて2008年以降ほぼ0/10万人である。福島では10-14歳は減少傾向にあり、15-19歳がこれに次ぐ。20歳以上は今後の経緯に注意が必要である。全国では原発事故にかかわりなく、事故時18歳以下での頻度は低い(2017年では20-24歳以下に)。

(図3)

宗川氏は、福島の小児の発症率は全国に比べ高いが、先行検査の時、すべてが被ばく発症とは言えないのではないかという地点から出発する(もちろん、この出発点は間違ってはいない)。が、通常発症が59例であったという結果が現実データと明らかに乖離している。その根拠?をチェルノブイリと比べた福島の低線量者の少ないという点に求めたことは疑問である。

より本質的な疑問は先行検査の地域別の発症の違いは観察期間を無視した率(有病率?)で示し、一方で本格検査は観察期間を考慮した人年での発症率で比べた点である。

先行検査での高汚染地域では0.75年の観察期間で45.7/10万人、中度汚染地域では1.5年の観察期間で56.7/10万人の患者が発見された。同じ観察期間なら高汚染地域では91.4/10万人となるべきであり明らかに高汚染地域の率(罹患率)が高いはずである。

このように同じ観察期間で比べるべき(決定率)であるとして線量による地域差を明らかにしたのが私ども医問研とドイツのH. Scherb氏とのMedicineでの共著論文である。

また、岡山大の津田敏秀氏は先行検査での原発事故前の18歳以下の甲状腺がんはほとんど0に等しいとすでに2016年Epidemiology 論文で明らかにした。津田氏はまた、高度汚染地域とその他の地域の有病率が逆なように見えるのは検査計画による交絡であると看破し、(図4)のように観察時期によりあたかも線量の低い地域で有病率が高いかのような間違いを犯しやすいと示した。

(図4)

そのほか宗川氏は彼の言う通常発症が高いことの裏付けとして病理学者菅間博氏の論文を引用しているが、この論文は事故前の、いつからいつまでかは不明の期間の特定病院での小児甲状腺がん185例の剖検を含めた病理症例を集めたものであり、私は一般化できないと考える。

偉そうに述べてきたが、宗川氏のインタビュー記事から例えば事故発生時の4地域の発症累計直線の一致など、教えていただきたい点も多々ある。ぜひ論議をお願いしたいと思います。

山本英彦