放射線防御の民主化フォーラム2023-2330報告(NEWS No.579 p07)

11月3・4日に福島市で開催された「放射線防御の民主化フォーラム」に、放射線の次世代に与える障害の増加と、この分野でのUNSCEAR報告の問題点を報告するように要請していただき、福島市の会場で報告しました。私の報告もふくめて、スライド、ビデオ(U-Tube)は以下をご覧ください。www.ccnejapan.com/?p=14270

このフォーラムの主催は、慶応大学商学部・濱岡研究室で、原子力市民委員会など5団体が共催しています。当日の運営は濱岡豊教授や柿原泰東京海洋大学教授、清水奈名子宇都宮大学教授、藤岡毅大阪経済大学客員教授などがされていました。

ところで、政府の放射線に関する政策・指針は、国際放射線防御委員会ICRPの勧告を参考に作られています。この勧告は、原子放射線の影響に関する国連科学委員会UNSCEARの「科学的」評価に基づいて作成されます。

ICRP基本勧告が2030年に出ますので、それの根拠になるのが福島に関するUNSCEAR報告です。その2020/2021年報告はひどいもので、甲状腺がんは増えたが放射線と関係なく「過剰診断」にすぎない、次世代への影響も見られない、その他のWHOがこれまでの知見から予想した白血病やその他のガン、広島・長崎原爆後の研究で示されている循環器疾患も増えていないとしているのです。

そのため、このフォーラムの目的は、UNSCEARに対する批判点を明確にして、原発事故による被害者の闘いや、一般市民にそのことを広く知ってもらうことです。

以下、今回のフォーラムの報告者と表題や内容をごく簡単に紹介します。

<福島の経験を共有する/ICRPの問題(1)>

最初に、主催者の濱岡豊さんから、「福島の経験を共有し、放射線の影響からの”身の守り方“を市民の視点で問い直す」との「イベントの背景と目的、概要」として、ICRPの評価と、ICRPに対する働きかけや、これまでの取り組みなどが紹介されました。

福島原発告訴団団長武藤類子さんは、身を守るには、被曝に絶対安全量はないこと(LNTモデル)の常識化、放射線の危険性の教育(副読本の再改定)、被害に対して声を上げる、目をそらさず真実を知ることを、提案されました。伊達市市会議員島明美さんは伊達市の市民を対象とした被曝が大変少なかったとする宮崎・早野論文の不正とICRP111/146のつながりを報告されました。元福島県立高校理科教員八巻俊憲さんは「福島原発事故で経験した被ばく状況と放射線防護の実態」、と題して、ICRP勧告が市民を守らなかったことをリアルに報告されました。その他、原発賠償京都訴訟団の明智礼華さんが「原発賠償訴訟、京都訴訟での取り組みについて」、市村高志さんが「原発災害地域の「あの時」と「現在」を報告されました。

<展示と関連団体などからの報告>

写真家の飛田晋秀さんは、同時に開催された写真展の紹介も含めて、福島での被ばくの現実を見事な写真で説明されました。

福島敦子さんは原発賠償京都訴訟の原告として、事故当時の状況、最高裁判決の意義とその他の裁判の状況などを報告されました。

郷田みほ「市民立法「チェルノブイリ法日本版」を作る郡山の会」代表は、その内容と必要性を分かり易く説明されました。他の連帯のメッセージなどが続きました。

<福島の経験を共有する/ICRP146の問題(2)>では、

清水奈名子さんからは「県境を越えた放射能汚染―栃木県からの報告」がありました。私たちの周産期死亡論文と低出生児体重児の論文でも、福島県以外の多くの東北地域で強い汚染があり、多くの障害がもたらされたことを報告しています。しかし、福島県以外の問題はあまり知られていない中で、大変重要な報告だと思いました。

UNSCEAR福島報告書の問題点(1)>では、

本行忠志大阪大学名誉教授が、「超低線量被ばくと推定したUNSCEAR報告書の問題個所は100以上」だと、主に、被曝量LNT閾値なし、「統計的有意差なし」「内部被曝」「被曝の過小評価」などを解説され、津田敏秀岡山大学教授は、「原発事故と甲状腺がんの間に因果関係が明確にある。過剰診断は間違いである」ことを明確にされ、黒川眞一高エネルギー加速器研究機構名誉教授は、「UNSCEAR福島報告書における被曝量推定の問題」と題し、様々なデータを検討して甲状腺の被ばく量は決して小さくはないことを、理学博士の加藤聡子さんは「福島甲状腺がんの分析」でチェルノブイリとの線量と甲状腺がん増は同じであること、牛山元美さがみ生協病院内科部長は「臨床医から見た福島の小児甲状腺がんの課題」を、崎山比早子3・11甲状腺がん子ども基金代表理事は「福島県における甲状腺検査のメリット-甲状腺がん当事者が批判する過剰診断言説」をそれぞれ報告されまた。

私は「福島原発事故後の次世代への影響(周産期死亡と低出生体重児の増加)を、種市靖行医師は「県民健康調査の問題点」を明確にされ、組織自体のおかしな点やデータ開示についても申し入れにより、海外の研究機関への提供は否定されていることが明らかになった、などが報告されました。

<関連団体からのメッセージ>

井戸健一「3・11子ども甲状腺がん裁判弁護団団長、今野寿美雄「子ども脱ひばく裁判」原告団団長、武藤類子「ALPS処理汚染水差止訴訟」事務局、のみなさんからありました。

CRP新勧告改訂にむけてどうしてゆくかに関して>

柿原泰さんが全体像として「ICRPの放射線防御体系の特徴と問題点―市民の観点からの見直しを」、藤岡毅さんは、「ICRP勧告の根本理念の変遷とその科学的欠陥について」と題して、「被曝量を可能な限り低くするべきである(ALARAからALATAへ)など、放射線防御の民主化実現のための目標を報告されました。高木学校瀬川嘉之さんは、市⺠が知りたい被ばく影響、市⺠が求める被ばく対策を報告しました。

<連帯に向けて>では、

種々の方々との連帯をテーマに報告がされました。

小山美沙元毎日新聞記者は、広島・長崎の「現在に続く『黒い雨』否定の構造」、林衛富山大学准教授は、「水俣病・原爆・原発公害被害放置に共通する御用論法をみんなでただそう」と報告されました。また、若い世代との連帯(若い世代の意識調査や闘いへの若い世代の参加)として清水奈名子さんと後藤忍福島大学教授は「大学生アンケート調査の紹介」、若い方から明智礼華さん、佐久川恵美同志社大学都市研究センター研究員から沖縄避難者支援が報告されました。

私の報告は、30分間でしたので、周産期死亡・低出生児を各10分、UNSCEAR批判を10分報告しました。内容は、一般の方にも理解していただけるものとしました。報告への質問として「放射線の胎児被害を若い方にどう説明するのか?」に対して、孫が15日に仙台で生まれた、娘には気持ちを配慮しながら説明、本当のことは隠すのではなく、それを基にどうするか考えます、これは患者さんへの態度と同じですと答えました。

1日目夜の交流会>

黒川眞一さんを始め13人?で夜8-11時ごろまで交流しました。私は近くの柿原泰さんや濱岡豊さんに最近の大学事情を聴きました。大変リラックスした交流会で、気分よく酔わせていただきました。今後もこのようなフォーラム・勉強会が開催されると思います。

はやし小児科 林敬次