パンデミック条約策定と国際保健規則(IHR)改訂の問題点(NEWS No.580 p08)

今回は「食の問題シリーズ」はいったんお休みさせていただき、世界中で問題視されている「パンデミック条約」策定と「国際保健規則(IHR)」改訂について触れてみたいと思います。

「パンデミック条約」とは、正式には「パンデミックの予防、備え、および対応(Pandemic Prevention, Preparedness and Response:PPR)に関する新たな法的文書(WHO CA +)」のことであり、国際保健規則(International Health Regulations:以下IHR)とともに、来年2024年5月の第77回WHO総会で提出され、採択される予定になっています(Proposal by the Bureau on an updated timeline and deliverables, development of the zero draft of the WHO CA+, and establishment of drafting group modalities)。これらは表向きには、今回の世界的な新型コロナパンデミックを受けて、今後のパンデミックへの予防・備え・対応(Pandemic Prevention, Preparedness, and Response:PPR)のために新たな策定や改訂が必要だとされています(COVID-19:Make it the Last Pandemic, The Independent Panel FOR PANDEMIC PREPAREDNESS & RESPONSE)。一方で、世界中の人権擁護団体や反グローバリストたちは、WHOの権限を強める新たな条約の策定やIHR改訂に警鐘を鳴らしています。例えば、HUMAN RIGHTS WATCHは、「パンデミック条約草案では、医療における私的行為者を厳格に監視・規制すること、また、私的行為者の医療への関与が、政府のパンデミックへの効果的な対応能力に有害な影響を与えないようにすることに関する人権の枠組みが盛り込まれていない」ことに警鐘を鳴らしています(Draft “Pandemic Treaty” Fails to Protect Rights, November 7, 2023)。また、英国の産婦人科医であるテス・ローリー博士が設立した、大手製薬企業が医学的根拠を捻じ曲げている現状を憂い、より良いホリスティックな医療を目指す団体であるWCH(World Council for Health)は、真っ向からこのWHOのPPR改革に反対している急先鋒となっています。日本では、日本オーソモルキュラー医学会代表理事の柳澤厚生先生がWCHの日本支部を立ち上げ、パンデミック条約策定・IHR改訂を含むWHOのパンデミック政策に反対の声を挙げています。

パンデミック条約はIHR改訂と補い合うような構造になっており、来年5月に両方が可決されなくても片方のみで目的が達成できる形になっています。例えばIHR(2005年版)では、これまでWHOによりPHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)が発動された際に効力を発揮する形になっていましたが、「潜在的な緊急事態」も対象となり、その適用範囲が大幅に拡大され、しかもこれまでは単に勧告を出すだけの諮問機関としての役割から、法的拘束力を持つ「統治機関」に変更されることになります。その内容に関しては、字数の関係で詳細は省きますが、個人的に一番問題だと感じているのは、「ステークホルダー(利害関係者)」と「非公式会合」と「言論の自由がさらに制限される」という問題です。「ステークホルダー」に関しては、大手製薬企業やビル&メリンダ財団といったWHOに寄付している大口投資家らが会合に参加でき、発言権を認められています。しかもその会合は「非公式」のものがあり、一般市民には公開されません。また、これらが採択された場合、これまで以上に「WHOや政府が認めた情報以外は全て検閲され、『誤情報・偽情報』としてみなされるとその情報が表に出てこなくなる」ということになります。今回のコロナ禍・ワクチン禍でも、SNSでの情報発信にも検閲が入り、情報統制が敷かれましたが、それが今後さらに露骨な形になり、WHOや政府の発信する内容と異なる情報は一般市民の目にはもはや触れなくなる可能性があるということです。さらに、このような国際条約や国際的な取り決めは、国家の憲法をも凌ぐ法体系になる可能性もあり、「国家主権」や「人権」が損なわれ、遺伝子ワクチンなど危険な医療行為が「強制接種」になるのではないかという懸念もあると警鐘を鳴らしている人が少なからずおられます。

「パンデミック条約」や「IHR改訂」に限らず、コロナ禍後の世界は「ワンヘルス(One Health)」や「ワンワールド(One World)」といった言葉に代表される「世界全体主義(グローバリズム)」の思想の下で、確実に一歩一歩「管理社会」・「監視社会」に向かっているように思います。まさにジョージ・オーウェルの「1984」で描かれた世界観や、ナオミ・クラインが「ショック・ドクトリン」で警鐘を鳴らしたことが、今この現実世界に具現化しているのです。この向かう先は、一部の支配層・権力者層が全てを独占し、被支配層である我々一般大衆には何も所有する権利を与えられず、自由も認められない「ファシズム化した世界」です。このような流れを止める術はないのかもしれませんが、一人一人の意識を変えていくべきであると強く感じます。

医療法人聖仁会松本医院 院長 松本有史