1月例会報告② 症例から学ぶ 乳児の頭部変形には丁寧な説明を  ヘルメット療法は推奨されない(NEWS No.581 p04)

メーカーホームページより

乳児健診では、向き癖による頭の変形の育児不安が多い。6か月を過ぎ、背這いしかせずブリッジ姿勢をとる、との相談を受けた。精神運動発達に問題はなく、頭の形を良くするというヘルメットの装着は止めてもらった。宣伝のダイレクトメールが来たこともあり、治療法について文献検索を行った。

文献提示

1)Helmet therapy in infants with positional skull deformation: randomised controlled trial. BMJ 2014;348:g2741 doi: 10.1136/bmj.g2741

頭蓋骨位置変形の乳児に対するヘルメット療法:無作為化比較試験

Abstract

Objective生後5~6ヵ月の乳児を対象に、頭蓋骨の位置変形に対するヘルメット療法の有効性を、自然経過と比較して明らかにすること。デザイン 実践的、単盲検、無作為化比較試験(HEADS, HElmet therapy Assessment in Deformed Skulls)を前向きコホート研究にネストした。

Setting 29の小児理学療法施設;ヘルメット療法は4つの専門施設で実施された。

Participants 妊娠36週以降に出生し、筋性斜頸、頭蓋合骨症、異形成を認めない中等度から重度の頭蓋骨変形を有する5~6ヵ月の乳児84名。参加者は、ヘルメット療法群(n=42)と自然経過群(n=42)に無作為に割り付けられた。

Interventions 6ヵ月間のヘルメット療法と頭蓋骨変形の自然経過を比較した。両群とも、保護者は頭蓋骨変形に対する(追加)治療を避けるよう求められた。

Main outcome measures 主要評価項目は、ベースラインから生後24ヵ月までの頭蓋形状の変化で、斜頭計(人体計測器)を用いて評価した。斜頭(斜径差指数)と斜頭(頭蓋比例指数)の変化得点は、それぞれベースライン値を共変量として共分散分析に含めた。副次的アウトカムは、耳偏差、顔面非対称性、後頭部挙上、乳児の運動発達、QOL(乳児と親の測定)、親の満足度と不安であった。ベースライン測定は5~6ヵ月の乳児を対象に行い、8ヵ月、12ヵ月、24ヵ月に追跡測定を行った。24ヵ月時の主要アウトカム評価は盲検下で行われた。

Results 斜頭症および斜頭症の変化スコアは、ヘルメット療法群と自然経過観察群で同等であり、平均差はそれぞれ-0.2(95%信頼区間-1.6~1.2、P=0.80)および0.2(-1.7~2.2、P=0.81)であった。完全回復は、ヘルメット療法群では39人中10人(26%)、自然経過群では40人中9人(23%)で達成された(オッズ比1.2、95%信頼区間0.4~3.3、P=0.74)。すべての親が1つ以上の副作用を報告した。

Conclusionsヘルメット療法と自然経過による頭蓋骨変形の有効性が同等であること、副作用の有病率が高いこと、療法に関連する費用が高額であることから、ヘルメットを標準的な治療法として使用することは推奨しない。

診療上の意義

この研究から、健康な乳児の中等度から重度の頭蓋骨変形に対する治療において、ヘルメット療法に付加価値はないことが示された。HEADSの有効性試験と並行して、本研究の両群で行われた費用調査によると、ヘルメット治療を受けた乳児1人あたりの総費用は、頭蓋骨変形の自然経過を待つ乳児(n=14、157ユーロ)よりも大幅に高かった(n=20、1401ユーロ;1157ポンド;1935ドル)(日本では20~50万円)

自然経過と比較したヘルメット療法の有効性が同等であること、副作用の有病率が高いこと、治療費が高額であることから、中等度から重度の頭蓋骨変形を有する健康な乳児の標準治療としてヘルメット療法を使用することは推奨しない。乳児の頭部にぴったりとフィットするように設計され、扁平化した部分の頭蓋骨の成長のための余地を残すように設計された、硬質プラスチック製のシェルと発泡スチロール製の裏地からなる、あらゆるタイプのカスタムメイドのヘルメットでも、結果は変わらないと予想される。したがって、この結論は、両親、政策立案者、保険会社、そして小児科医、開業医、青少年医療専門家、小児理学療法士、装具士、小児神経外科医、頭蓋顔面外科医などの幅広い臨床医の意思決定に影響を与える可能性が高い。

われわれの研究でも、75%の乳児が2歳になってもある程度の頭蓋骨の変形を継続しており、その主な原因は斜頭であった。頭蓋骨の変形は、すべての症例において自然経過で完全に治るわけではなく、ヘルメット療法は回復のための付加価値はないようである。

それ故に、頭蓋骨変形の予防、早期発見、小児理学療法による早期治療の重要性を強調する。

したがって、本研究で頭蓋変形が持続している乳児の75%は、高年齢での有病率の過大評価である可能性がある。幼い乳幼児や頭髪に覆われた年長児において、許容できる頭部形状とはどのようなものであるかは、依然として議論の余地がある。(以上BMJ)

頭蓋骨発育のその他の知見

2)一般的に哺乳類ではまず脳頭蓋の成長が目立つが、これは脳神経がほかの部分に比べて早い時期に、しかも急速に成長することを反映している。それに比べて顔面・顎頭蓋のほうの成長の仕方が少しゆるやかだが、長期にわたって成長する。また頭蓋諸径のうち、幅径群や高径群よりも長径群の成長のほうが著しいという一般的傾向もみられる。(W.J.Moore & C.L.B.Lavelle,1974)

3)顔面部と脳頭部の大きさの割合は、ヒトの新生児では大体1:8だが、成人では1:2になり、生後の成長では顔面の増大が脳頭部に比して大きことがわかる。脳頭部は出生前から引き続いて出生後も急速に増大し続けるが、4歳くらいですでに成人の90%くらいに達する。ところが顎・顔面部はせいぜい40~50%である(Bambha,1961)。

4)出生直前は長頭化が進んでいるが、生後数年たつと、人種的もしくは遺伝的に決められた頭型(長頭型とか短頭型)に落ち着いてきて、5歳以後ではほとんど頭型の変化を示さないPearson & Tippett,1924)。

以上より、ヘルメットによる乳児の頭部変形改善のエビデンスは乏しく、また未定頸の頭部への負荷は重大な事故の危険性も想定され、ヘルメット療法は推奨できない。ヘルメット療法は、親の不安に乗じてビジネス化しており、臨床現場では丁寧な説明が必要である。

不安への説明

向き癖への説明:未頚定時、音、明るさなどの刺激の方を向くので一方にならないよう頭足変換を試みる。寝返り後は伏臥位で頭部挙上、腹ばい、座位、立位となり頭部の圧迫がなくなると変形は目立ちにくくなる。

頭囲曲線の見方:大脳の容積、成熟を示している。縫合は5歳ごろまでは閉じず柔軟性があること。体格とのバランス、家系の傾向(両親、祖父母の頭の形)に影響を受けることを理解してもらい、育児不安に寄り添って発育・発達の経過観察が必要である。

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