3.11福島子ども甲状腺がん訴訟支援を。えせ専門家達のスクリーニング効果/過剰診断説のごまかしを許さない(NEWS No.583 p05)

医問研ニュース2023年8月号、2024年1月号で我々は、福島の甲状腺がん多発はスクリーニング効果ではなく放射線汚染によるものであるという津田敏秀氏の2論文、それを補完するものとしての医問研とドイツH.Scherb氏との共著論文を紹介した。今号では論点をさらに具体的に詰めることとする。

1.子ども甲状腺がん裁判の紹介

2022年1月、自ら福島原発事故後甲状腺がんに罹患したと7名が裁判に訴えた。2011年3月の福島原発事故当時6か月から16歳までの7名による、東電ホールディングスを訴えた「311子ども甲状腺がん裁判」の始まりである。今日まで、事故当時18歳以下の福島甲状腺機能管理調査から300名を超える甲状腺がん罹患者が生じているが、罹患どころか被ばくすら隠す風潮の中での裁判への決意は並々ならぬものがある。原告は被爆当時6か月から16歳までの7名。すでに2名が甲状腺の片葉切除、4名が全摘。2名は複数回手術、別1名は肺転移。4名は放射性ヨード(RAI)治療を行っている。2024年3月、第9回口頭弁論が行われた。弁論前の準備書面のやり取りが展開されている。東電側の主張は「国際的に合意された科学的知見ではがんリスクの推定に用いる疫学的方法は、およそ100mSvまでの線量範囲でのがんのリスクを直接明らかにする力を持たない」とする、「100mSv(ミリシーベルト)論」であり、原告は2023年のRichardson論文(死亡について)まで持ち出し、的確に反論、東電側を論破している。

2.横谷、鈴木論文にみる低線量と罹患問題

本年医問研ニュース1月号で横谷進氏、鈴木元氏のレビュー論文を批判した。その中で100mSv以下の低線量と小児甲状腺がんを巡る国際論議がゆがんで紹介されている点を示す。広島、長崎、医療、チェルノブイリから、100mSv以下の低線量被ばくと小児甲状腺がんの関係については1995年のRon,1999年のJacob, 2016年のVeig らが明らかな放射線影響を示している(ここまでは鈴木氏も世界の論文と同じ)。ところが、「2017年Lubinは0-0.03Gyでは、この領域の閾値モデルもデータと適合する」と鈴木氏は強調し、「0.03Gyという閾値線量が現実である場合、0.03Gy未満では甲状腺がんリスクを心配する必要はない」とすり替えたのです。実際のLubinの論文を見ると、結論として「したがって、我々の結果は、これらの先験的制限レベルを下回ると過剰な放射線関連の甲状腺がんリスクがないという示唆に反駁し、ALARA 評価の直線性を裏付けるものである。」とされており、鈴木元氏の論理がすり替えであることがわかる。

また、医問研ニュース2024年1月号に載せたScherbらのグラフを添付する。

もちろん、線量は甲状腺がん罹患率に比べ推定線量が不確定であり、主観的である点は以前から述べている通りである。

3.甲状腺がん多発はスクリーニングによる見せかけか放射線被ばくか?

鈴木元氏のレビュー論文では、緑川氏や高橋氏の論文を示し、FHMSで見つかった甲状腺がんの大きさが消退傾向にあるか増大傾向にあるかで論議があるかどうかが大問題のごとく論じているが、ここでの問題はその点ではなく、多発したのは何が原因かという点である。もちろん本記事の冒頭で述べたように、10代で見つかる甲状腺乳頭がんは潜在がん、オカルトがんも含めて数は少ないが、進行、転移は20代以上より速い(隈病院宮内氏のデータより)。また10歳未満の甲状腺がんはほとんどない。参考文献によく出てくるスウェーデンの剖検例でも最少年齢は17歳である。

こう見てくると、当初から津田敏秀氏が指摘したように、福島県内での甲状腺がんの罹患率、有病率や検出率の違い、福島県と放射線被ばくの少ない他府県との違いを比べ有意差を検討することが放射線被ばくかスクリーニング効果による過剰診断かを判定する唯一の方法であることが理解される。この意味では津田氏や我々以外には国立がんセンターの片野田氏のデータが有用である。片野田氏は原発事故前後の年齢群別推定有病率と確定有病率を比較した。それによると2010年の福島県の20歳以下の推定有病率に対応する観察有病率の比は22.2(95%CI;18.9:25.9)だった。

ところが、福島県の推定累積甲状腺がん年平均死亡者数(2009-2013年)は29歳までに0.10人とされた。また、チェルノブイリと同じように2013年までに罹患率の増加はないはずだとされた。これらのため、福島の多発は放射線被ばくによるものではないと判断され、過剰診断の可能性が高いと判断された.

問題は罹患率であり、死亡率ではないし、本年1月号で述べたように罹患は事故後1年以内に始まっている.点も強調したい。

参考文献

1. 津田敏秀;Epidemiology :vol27 316

2. 津田敏秀;Environmental Health volume 21,

Article number: 77 (2022)

3. 山本英彦ら;Medicine: 98 e16175

4. https://www.311support.net/news-240306/

5. 横谷進:日本小児科学会雑誌vol127 401

6. 鈴木元:JRR vol62 i7

7. Lubin:J Clin Endoclinol Motab

2017 ;102:2575

8. 山本英彦ら;JRR vol 62;420

9. 宮内昭;Surgrry vol163:48

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11.Midorikawa; JAMA Otalaryngol

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13.Katanoda; JJCO.Vol48:284