学会などの被曝に関する声明について(NEWS No.433 p04)

本年3月,東京電力福島第一原子力発電所の炉心溶融(メルトダウン)・水素爆発の発生後,放射性物質は放出され続けており,私達にとって「放射線被ばく」は避けて通れない問題となっています。私達の健康的な生活の守り増進するべき任務を担っている国内の学究団体が,この事態に対し提言している内容を,それぞれのホームページから調べてみました。一部抜粋して報告します。

日本学術会議:6月17日「放射線防護の対策を正しく理解するために」と題した会長談話を掲載しています。

「今回の漏出した放射性物質による一般の人々の被ばくは,しきい値がない『確率的影響』に関するものです。具体的には,積算被ばく線量が1000ミリシーベルト(mSv)当り,がん発生の確率が5%程度増加することが分かっています。すなわち100 mSvでは0.5%程度の増加と想定されますが,これは10万人規模の疫学調査によっては確認できない程小さなものです。ちなみに国立がん研究センターの『多目的コホート研究』によれば,100 mSv以下の放射線により増加するがんの確率は,受動喫煙や野菜摂取不足のよるがんの増加より小さいとされています。」

「日本の放射線防護の基準が国際的に共通の考え方を示すICRPの勧告に従いつつ,国民の健康を守るためのもっとも厳しいレベルを採用していることを,国民の皆さんに理解していただくことを心から願っています。」

以上,低線量被曝は問題なしという態度を貫いています。

日本医学放射線学会:6月2日「原子力災害に伴う放射線被ばくに関する基本的考え方」

「低線量の放射線影響 放射線量の増加に伴い,がんなどの確率的影響が発生する危険性も増加する。しかし100 mSv以下の低線量での増加は,広島・長崎の原爆被爆者の長期の追跡調査をもってしても,影響を確認できない程度である(ICRP発表)。原爆被爆では,線量を一度に受けたものであるが,今回は慢性的に受ける状況であり,リスクはさらに低くなる(ICRP発表)。そのため今回の福島の事故で予想される線量率では,100万人規模の前向き研究を実施したとしても,疫学上影響を検出することは難しいと考えられている。日本人のガン死が30%に及ぶ現代においては100 mSv以下の低線量の影響は実証困難な小さな影響であるといえる。」

「小児への放射線影響 白血病以外のすべてのがんの相対リスクは被ばく時年齢が10歳以下の場合では,対象者の2.32倍となっている。100 mSv以下の低線量における発がんリスクは,小児においても確認されてはいないが,小児の被ばくに対しては,多くの場面で特別な配慮がなされなければならない。」

歯切れは悪いですが,低線量の影響は無視できるという立場です。

日本疫学会:3月25日「福島原子力災害での放射線被ばくによる健康影響について」

「がんなどの影響(晩発影響)が出現する可能性も,生活習慣の違いによる健康リスクの個人差などと比べれば,無視できるほど小さなものです。

放射線の内部被ばくによる影響は外部被ばくの影響に比べて,良く分かっていません。国連科学委員会2008年報告書も『I-131被ばくと甲状腺がんリスクとの間の定量的関係に関する情報は不十分である』と述べております。

これまでに国内外で行なわれた疫学調査では,低線量被ばくでは,放射線によってがんやがん以外の疾患のリスクが増加することを示す明確な証拠は得られていません。」

つまり放射線の対策をする必要は無いという立場です。

ICRP(国際放射線防護委員会)は原爆開発のマンハッタン計画に加わった団体が前身組織ですが,ICRPの発表をお墨付きのようにして,「100 mSv以下ではデータが無い・証明されていない」と言い放っているのが日本の諸学会の実態です。私は,この件について医問研のメンバーが検索している文献の多さと,危険性を示す諸データの落差に驚くばかりです。

小児科医 伊集院