フランスの薬の独立情報誌編集部訪問記(NEWS No.433 p05)

「プレスクリル誌」編集部訪問記

この夏に医問研有志による英国・仏国スタディツア-の一環として2011年8月18日(木曜日)午後にパリ市内で,フランスの薬の独立情報誌である,プレスクリルPrescrire誌の編集部を訪問しました。以下はその印象記です。出席者は,プレスクリル誌側から,クリストフ・コップ氏(医師,編集長)とピエール・シラク氏(薬剤師,副編集長),医問研側からは林,入江,柳,高松でした。

まずはプレスクリル誌の紹介ですが,フランスにおける医師,薬剤師の継続教育のための情報誌です。フランス語で書かれています。一方で,英語版のPrescrire Internationalも発行しています。発行部数は,プレスクリル誌(フランス語版)で,毎月80ペ-ジもので,35,000人の読者がいます。半分は医師で半分は薬剤師です。13年前政府の補助が打ち切られ,現在は財政的には完全に読者からの購読料で独立して運営されているとのことでした。またコップ氏は,フランス語版の編集者で,英語版の編集長でもありますが,パリ市内で一般開業医(General Practitioner)として働きながら編集の仕事もされています。

プレスクリル誌の発行には,100名を超えるスタッフがかかわっているとのことで,医療の専門家以外に,統計の専門家,法律家なども入っているとのことでした。読者の中にも編集協力者が存在し,一定期間のトレーニングの後で,得意とする分野で最新の情報提供や批判的な分析を書き上げています。多方面で訓練された評論者(レビューワ)のグループが形成され,彼らがプレスクリル誌を支えています。本誌は,一般的に大学の専門家には頼らずに発行されているとのことです。とりわけ,新薬評価や副作用の報告時には,編集部評論者(Reviews, Editorials)の名前で投稿しています。これは製薬企業や規制当局から,著者個人を守るための配慮です。最近は,著者の動機付けを高めるために署名入り記事も出てきているとの話でした。

製薬企業をはじめ医療関連企業からの資金供与の問題(利益相反)について,フランスでは2009年から必ず公開が義務づけられたとのことです。製薬企業は,医療従事者に様々な形で影響力を発揮しており,健康情報を歪めています。医療従事者や市民は適切な健康情報に頼るべきで,フランスでは社会的関心が高い分野です。さらに話題は,世界保健機関(WHO)にもおよび,近年はWHOが巨大製薬企業の資金提供を受けており,信頼できない場合も多く,批判的に検討されるべきであるとの点で意見が一致しました。

コクラン共同研究については,貴重な情報であると思うが,一方で実践的な問題として,例えば,新薬の評価や副作用の最新情報はコクランのレビューには出ていないとの話でした。これらの点でプレスクリル誌の活動は極めて特長的と考えられます。常に「患者の利益とは何なのか?」を考えながら編集をしていくことが最も重要なことであるとの話に一同は共感をしました。

有意義で友好的な交流を行うことが出来ました。

たかまつこどもクリニック 高松