福島小児の健康調査と甲状腺被ばくに対する考察(NEWS No.448 p03)

2011年の福島原発事故後今日まで、人々の健康被害は多方面、長期に及ぶと考えられるが、今回は健康調査と甲状腺被ばくを考える。

チェルノブイリでは事故後小児の甲状腺がんが多発し、ウクライナだけで5000人以上の小児甲状腺がんが発症した。曲がりなりにも福島県が甲状腺検査を始めたのも、こういった事実背景を多くの人が知っているからである。その結果、40%にも及ぶ小児に甲状腺結節/のう胞が見つかり、38000人の検診で5mm以上の結節ないし20mm以上ののう胞を示した186名が精密検査の対象となり、60名が検査を実施、そのうち22名が再検査、一名にがんが見つかっている(23年度)。

この深刻な検診結果にふたをしようという動きが顕著である。主たる論理は、福島での被ばく線量はチェルノブイリに比べ極めて少ない、果てはチェルノブイリで甲状腺がんが増えたのは検査を多くしたからだといった内容である。以下この二点を検討する。

まず福島の被ばく線量は少なかった?という点について。県の報告では、4か月間の外部被ばく線量について、原発から20-30km圏にあり線量が高い地域のはずの浪江町ですら外部被ばく線量がほとんど1mSv以下、3mSvを越える人はいなかったということになっている。ところが同じデータをもとにしたはずのWHOの4か月間の報告では浪江町の外部被ばく線量は10-50mSvである。ついで内部被ばくである甲状腺の等価線量をみる。2011年4月原子力安全委員会が、福島の小児甲状腺等価線量の最大は35mSv、ほとんどはスクリーニング以下だったとした。SPEEDIによると浪江町は最大500mSv(甲状腺等価線量、1歳)、WHOの調査でも100-200mSv(同)である。福島県が被ばくを少なく見せようとしているかがこれだけでも歴然としている。

被ばく線量が多いことは、健康調査での結節/のう胞の多さからもうかがい知ることができる。低線量被ばくが甲状腺がんばかりか、良性の結節をも増加させることは定説になっている。図1は低線量で良性結節が直線状に増加することを示した研究であり、医学教科書にも載っている。したがって、今回の福島の調査で40%という高率で小児に結節/のう胞が見つかったということが、放射線被ばくが広範囲であったということを表していると考えられる。40%が高率かどうかについてだが、チェルノブイル後のウクライナで、放射性ヨードにさらされた群で24%、対照群で8%結節が見られたといった報告もある。

図1(縦軸はRR;相対危険度、横軸は被曝線量、被曝線量が上がれば良性結節が増加することを示す。)

第二点目の、検査をし過ぎるようになったからチェルノブイリでの甲状腺がんが増えたという論調についてである。これが間違っていることはチェルノブイリでの甲状腺がんの年齢層別年度別発症を見れば一目瞭然である(図2)。たとえば0-9歳での甲状腺がんが1993年のピーク後減少に転じているのは検査をしなくなったからではない。がんの増減は放射線の影響と考えるしかない。

図2 (縦軸は100万人当発生率、横軸は診断された年)

今も続く福島県の甲状腺健康調査の中で、低線量被ばくの影響を知るためには、地域別の結節/のう胞の発生頻度を公開させる必要がある。線量―頻度関係に相関が認められれば、子供たちの甲状腺被ばくの深刻さ、対策の変更の必要性がより明らかになるからである。

< 参考文献>

1).福島県;甲状腺検査の実施状況および検査結果について  http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240426shiryou.pdf

2).WHO preliminary dose estimation from the nuclear accident after the 2011 Great

East Japan Earthquake and Tsunami

3).Schneider AB ; J Clin Endoclinol Metab 77: p362,1993

4).O’Kane P; Thyroid 20:p959,2010

5).UNSCEAR 2008 Annex D p155