いちどくをこの本『低線量汚染地域からの報告チェルノブイリ26年後の健康被害』(NEWS No.449 p07)

馬場朝子・山内太郎

緑風出版1470円発行2012/09/25

この本はこれからの福島原発事故の障害性を考える上でも多くのことを教えてくれるように思いましたのでご紹介します。

ウクライナは、チェルノブイリ事故で最大の被害を受け、その実態を国家として検証する姿勢の最も強い国です。国立記録センターには236万4538人の被災者のデータがまとめられているとのことです。

事故後25年の2011年、ウクライナ・ロシア・ベラルーシの政府関係者、IAEA,G8、EUの政府関係者によるキエフ国際科学者会議が開催された際に、ウクライナ政府から被曝の影響についての「ウクライナレポート」が出されました。この報告では、甲状腺がんはもちろん、白血病や他の癌、免疫・神経精神・循環器・呼吸器・消化器・血液学的影響など、多彩な障害の実態が明らかにされています。

この本は、この報告書の実態に迫るために現地での取材を紹介したものです。主な取材地コロステンという市は、平均被曝等価線量は1986年でも年間1.96mSv、その後の25年間累積で6.19mSv、年平均0.25mSv であり、福島の多くの地域より低い所です。にもかかわらず、1986年の15才未満の甲状腺がんは8人でしたが年々増え、2009年には463人になっています。また、事故前まで年間数件だった先天性障害のある子どもは現在30-40人に増加しているのです。

その他の疾患、特に心臓や血管系の病気が増加しており、死因の80%以上が循環器疾患だそうです。消化器系、呼吸器系も増加し、これら疾患の増加はこの市の多くの人々に苦悩と苦痛を与えています。

しかし、IAEAや国連などはこの事実を決して認めようとしていません。1989年のウクライナレポートは甲状腺ガンの増加を訴えていましが、これらの国際組織は「超音波装置などが良くなったため発見率が上がったからだ」と開き直りました。福島での甲状腺ガンの増加に対する福島県・政府や「専門家」の対応は、この時と全く同じです。この嘘がチェルノブイリでばれているにもかかわらず、こりずに同じ嘘をついているのです。

また、ある国連関係者は取材班に対して、国連が現在でも甲状腺ガン以外の健康被害を認めない理由として、「ウクライナにおける健康被害と低線量被曝との因果関係の立証に足る条件(ヒルの9基準)を満たす論文がこれまでのところ存在しないためだ」と答えたそうです。「ヒルの9基準」って何でしたっけ?ちょうど私が読んでいた、岡山大学津田敏秀教授の「疫学入門」には、因果関係をごまかすための非科学的基準である由、ちゃーんと書かれていました。

この本からは、チェルノブイリ事故で苦しむ人々と、その立場に立って様々な形で闘っている医療関係者の姿を垣間見ると同時に、知らなかった多くの事実を知ることができました。

(はやし小児科 林)