くすりのコラム No.232 インフルエンザワクチンの効果なしが、再確認されました(NEWS No.449 p08)

イギリス医師会雑誌BMJ誌は、インフルエンザワクチンに関する「新しい」レビューが発表されたことを報じています。これは、アメリカミネソタ州立大学のCenter for Infectious Disease Research and Policyが行ったもので、1967から2012年までに発表された論文をレビューしています。レビューの結果は、高い予防効果はなく、肝心のインフルエンザによる死亡の90%以上を占める65才以上では予防効果を示す根拠はないとしています。

もう一つの最も信頼できるレビューはコクランレビューですが、コクランには対象者によって、健康成人や子ども、高齢者など多数のレビューがあります。これまで何度もご紹介してきたように、ほとんどのレビューは、ワクチン効果を示す根拠はないとしています。

BMJの記事でも、コクランレビューアーのトム・ジェファーソンは「成人、子ども、高齢者と保健施設の労働者の10年余にわたるコクランレビューに基づけば、不活化ワクチン(日本も含め世界中のほとんどがこのワクチンをしようしている)は、健康成人・子ども・保健施設の労働者に対する効果を示す信頼できる根拠はない。ただ健康成人が半日早く仕事に出られることと、成人と青年の多少の症状を避けることができる程度である。しかも、その症状を1人が避けるためには、33から99人にワクチンをする必要がある。」

これで、ミネソタ大学のレビューアとコクランのジェファーソンらとの結論が一致したかのように見えます。しかし、ミネソタ大学の筆頭レビューアであるOsterholmは、コクランレビューを批判して、コクランはインフルエンザを確定診断する検査方法として、血清抗体価の上昇率を採用した論文を分析対象にしているとして批判しています。しかし、高橋晄正先生が証明されたように、この血清抗体価検査を採用すると、ワクチンの効果が実際以上に高く見せかけることが知られている方法です。ですから、コクランの方がワクチンの効果をとても良く評価する論文も含めて評価して、それでもやっぱり効果がない、としているのです。

他方で、ミネソタ大学のレビューでは、確かにインフルエンザを診断する検査がインフルエンザウイルスの培養やPCRを使った論文に限定しています。それでもレビューの結論は、前述のように効果がほとんど証明されていなかったのです。ところが、驚いたことに、このレビュー掲載した論文の結論は、今のワクチンでもちょっとは効くかも知れないので、もっと効果のあるワクチンが開発されるまで、今のワクチンを使っておくべきだ、としているのです。ですから、この結論にはとても強い政治力が働いている可能性があると、BMJは示唆しています。

私は以前から、ワクチンがインフルエンザや他の疾患も含めての「インフルエンザ様疾患」をほとんど減らせていないにもかかわらず、色々な検査で「インフルエンザ」と確定した患者の人数はがぜん大きく減らしていることに注目していました。今回の論争を受けて、コクランとミネソタ大学のレビューに取り上げられた論文を再度検討し直したところ、大部分の研究で同様の傾向が見られました。なんとかまとめて、ご紹介したいと思っています。

ともかく、インフルエンザワクチンの効果はいまだに証明されていないことが、証明されたというニュースです。

(はやし小児科 林)