中国の医療(前回からの続き:農薬パラコート中毒)(NEWS No.456 p02)

「・・・、パラコート中毒は確立した治療法がなく10人中6~7人は死亡する、というお話でした。パラコートの経口最小致死量は30-40mg/kgかそれ以下といわれ、成人でスプーン1杯程度の原液量です。パラコートは中国語で「百草枯」と呼ばれていて、農民は地元の商店で容易に安価に購入できるそうです(1本20元くらい)。「どうしてこれほど致死性の高い農薬が野放しにされているのか」と疑問に思い、少し調べてみました。」

以上は、前回の文章です。

パラコートは1962年英国で開発された非常に効果の高い除草剤です。日本では1965年に発売され、除草剤市場を占有してきました。農薬そのものとしての被害は報告されませんでしたが、自殺や他殺目的の使用が年々増加し社会問題化しました。当時パラコートによる死者数は年間1000人を超え、さらに1985年には日本各地でパラコートを使用した無差別毒殺事件が発生しました。これを受けて1986年、毒性を軽減するために従来品の24%から5%へ希釈され、毒性の低いジクワットとの複合剤になりました。さらに誤飲防止のために、苦味剤、臭気性物質、催吐剤も添加されました。その結果、死者数は1986年の1202人をピークに減少し、97年には400人以下になり、現在では200人以下となっています。非常に有毒であるにもかかわらず、WHOの農薬の有害度別分類では「中等度に有害」となっています。2003年にはマレーシアで、2007年にはEUで発売が禁止されましたが、その後規制緩和の動きもあるようです。

しかし、中国では近年パラコートの使用量が急速に増加し、しかも高濃度のまま売り出されています。最近の中国農薬問題の話題としては、環境保護団体グリーンピースが、中国や香港で購入した漢方薬草から相当量の残留農薬が検出されたと発表しました。また、私の滞在中の観察では、瀋陽にも大気汚染は広がっていて、病院の窓から見ると街全体に薄くもやがかかって見えるのです。私は1週間を過ぎたころから喉が痛くなり、咳が続くこともありました。宿泊先のテレビには、炭鉱労働者のじん肺問題が特集されていました。

中国の経済成長のパワーを肌で感じることができましたが、同時に「経済成長の狂気」と言ったものも感じられたのでした。60~70年代の日本の都市の雰囲気を、私は話を聴いて想像するしかないのですが、そのイメージに少し現実味が加えられたように思います。

(京大医学部学生 加畑)

現在、日本で「市販されている除草剤のプリグロックスL、マイゼット、には、パラコートジクロリド5%、ジクワットジプロミド7%、に、吐剤、界面活性剤、苦味剤、が混合されている。」とのことです。(林)