健康調査に基づく外部線量評価と甲状腺がんとの容量反応関係が認められた(NEWS No.484 p05)

県民健康調査での外部被ばく線量推計は2015年9月30日現在、実施は県民206万中56万、市町村別で17.6%から60.8%、平均27.3%の集計と発表された(2015年11月30日、第21回県民健康調査検討委員会)1)
県民健康調査外部被ばく線量推計に基づく容量反応関係の分析については2014年に本医問研ニュースに発表した2)
集計率はそれほど変化していないが(2014年6月30日で54万、26.4%)、当時は会津地方の甲状腺がんデータが皆無の時期であった。
先行調査による甲状腺がんが2015年9月30日で調査終了となった現在、改めて県民調査による被ばく線量と甲状腺がんの関係について分析した。

方法;
県民健康調査に基づく線量と人月甲状腺がん相対リスクの信頼区間評価、単回帰分析を行った。単回帰分析の計算には統計ソフトStatcelを用いた。
線量評価は福島県民健康調査 基本調査の市町村別・評価線量別推計(3/11から7/11まで)による外部被ばく線量推計結果(第21回県民健康調査検討委員会配布資料①-10)に基づいた。
各市町村について、1mSv未満を0.5mSv、2mSv未満を1.5mSvと推定し、集団線量から個人平均線量を推計した。平均線量の推計には重み付を行った。
甲状腺がん頻度については、各市町村ごとに人月あたりの甲状腺がんを頻度とした。
人月については2011年3月を起点とし、例えば2011年10月から11月にかけての検査地域は7.5とし、一次スクリーニング検査受診数との積を市町村人月とした。

この両者から、線量の低い順に4群に層別化し、第一群に対するそれぞれの群の相対リスクと信頼区間、各群の平均外部線量(mSv)との関係を単回帰分析で検討した。

結果;
群わけと構成市町村は(表1)に示し、(第1群=G1)最低線量群に対する各群の相対リスク、信頼区間を(表2)に示した。また、単回帰分析結果を(図1)、(表3)に示した。

【表1】

市町村
G1
檜枝岐、三島、西会津、只見、下郷、会津坂下、湯川、金山、喜多方、矢祭、南会津、昭和、北塩原、柳津、新地、いわき、会津美里、会津若松、塙、猪苗代、浅川、石川、棚倉、鮫川、中島、玉川の27市町村
G2
泉崎、矢吹、平田、鏡石、広野、小野、楢葉、古殿、相馬、田村、白河、富岡、三春、伊達、双葉、須賀川、南相馬、川内、葛尾、大熊、西郷、浪江、国見、天栄の24市町村
G3
郡山、福島、大玉、桑折、川俣の5市町村
G4
本宮、二本松、飯館の3市村

【表2】

外部被ばく
線量域(mSv)
平均外部
被ばく線量
(mSv)
甲状腺がん数群受診者数人月補正受診者数人月RR信頼区間
G1~0.520.513794,2952,849,30710.63~1.58
G2~1.20.722684,3091,497,6671.340.80~2.21
G3~1.51.3541106,8381,950,7341.621.04~2.52
G41.5~1.69815,034285,0962.161.01~4.64

【図1】

【表3】

分散分析F値P値F値
(信頼区間)
R2定数項p傾きp回帰式
28.90.01918.5(0.95)0.930.080.03Y=0.86X+1.42

県発表の外部被ばく線量(実効線量)と甲状腺がん相対リスクの間で、第1群に対し、95%信頼区間で3,4群で有意な増加が認められた。
全群RRは1を上回った。
また、有意な単回帰直線回帰が認められた。
外部実効線量が1mSv増加するごとに甲状腺がんの相対リスクは約2倍となる。

層別化を任意にとってもこの容量反応関係が成立するかについては、ロジスティック回帰やポアソン回帰などの分析が必要と思われる。疫学専門家諸氏の批評をお願いしたい。

(文献)
1)  第20回、21回県民健康調査 検討委員会 配布資料
2) 医問研ニュース No.467 p3  http://ebm-jp.com/2014/11/news-467-2014-7-p03/

大阪赤十字病院 山本