PCR検査の問題点について その2〜Ct値の問題:ウイルスの量と感染性について〜(NEWS No.546 p06)

現在COVID-19の診断として広く使用されているRT-PCR検査(リアルタイム one-step RT-PCR法)では、存在するウイルス量がある程度推定できる検査とされています。
目的の遺伝子断片がPCRで増幅され検査陽性になるサイクル数のことをCt値(threshold cycle)と言い、ウイルスの感染性に関連する可能性が示唆されています(Furukawa et al. 2020)。

ちなみに感染研病原体検出マニュアルによれば、「増幅曲線の立ち上がりが40サイクル以内にみられ……」と記載があり、これだとCt値は40サイクルでも良いことになります。しかし、これまでこのCt値は高過ぎることが強く批判されてきました。

その根拠として、CDCからの報告(CDC, Symptom-Based Strategy to Discontinue Isolation for Persons with COVID-19)があり、Ct値33-35ではウイルス分離が困難であったこと、発症9日目以降は検体からウイルスが分離できなかったこと、症状軽快3日後にはPCR検査陽性でもウイルス分離はできなかったことなどが示されています。

このように、検出されたウイルスに感染性があることを示すには、最低でもin-vitroで分離培養して増やせることを確認しなければなりませんが、他にも発症から日数が経つにつれCt値が高くなるとともにウイルス培養率が低下し、発症10日後にはほとんどウイルスが培養されなくなるという報告(Singanayagam et al. 2020)や、発症8日目には約80%の症例で中和抗体陽性となり、それ以降ではウイルスの分離が認められないとする論文(Wölfel et al. 2020)も存在します。

さらに、Ct値が34以上の患者では感染性ウイルス粒子の排泄がなかったという報告(Scola et al. 2020)や、少なくともCt値が30以上ではPCR陽性者のうち97%(31/32例)で感染性なしとする報告(Liotti et al. 2020)もあります。

これらのことを総合して考えれば、感染性を最低限担保するウイルス分離培養ができるかどうかは、発症からの日数およびウイルスRNA量に強く依存し、35以上の高いCt値では感染性はほとんどない、ということです。

ですから、日本で行われてきたPCR検査で陽性(=COVID-19)とされた症例の多く(特に無症状者)は、実際には感染性はなく、隔離の必要もなかった可能性が高いのです。

これらのことから、CDCもCt値の標準を33〜36としています。日本でも、先日ついに厚労省が無症状者に対するPCR検査では、Ct値を30〜35にするよう通達(要請)を出しました。

しかし、これでもCt値としてはまだ高過ぎる可能性があり、本当に感染性のあるウイルスが検出されているのか検証する必要があると思います。また、そもそもPCR検査が単にウイルスの残骸を検出している可能性を指摘する論文(Wellcome Open Research 2020. 5:181;13)もあり、たとえCt値が十分低くてもPCR検査で感染性のあるウイルスを検出できているのかは、きちんと検証しなければわからない話なのです。

さて、2回にわたりPCR検査の問題点を取り上げてきました。これらの問題が解決されない限り「PCR検査の拡充・拡大」はあり得ません。また、PCR検査はどこでも誰でもできる検査ではなく、そういう意味でも簡便な抗原検査の方が一般的に使用できるのではないかという指摘(N Eng J Med. 2020; 383: e120)もありますし、抗原検査や抗体検査の方が、実際のウイルスタンパク質の存在をみているので、不明確な遺伝子断片しかみていないPCR検査よりも検査で得られる情報としては信頼性が高いと考えられます。以上につき医問研の皆様の参考になれば幸甚です。

医療法人聖仁会松本医院 理事長兼院長
松本有史

<編集者よりコメント>

PCR検査と抗原検査については11月号に高松さんがまとめています。一方では、すべての検査にも当てはまることですが、松本さんはPCR検査の限界性を詳細に述べてくれていると思います。今後も引き続き議論ができればありがたいと考えます。