イスラエルのブースター接種効果について(2)(NEWS No.557 p05)

2021年12月号でイスラエルの3回目接種の効果についての第一稿を示した。簡単にまとめると、「コロナ罹患者の再増加を受けてイスラエルでは2021年8月1日から60歳以上対象から始め随時対象年齢を広げながら3回目のブースター接種を開始した。9月以降患者数が減少するかに見えたが11月から再度増加、12月には4回目接種を言わざるを得なくなってきた」となる。本号では第二稿としてブースター接種が有効であるとした論文の検討、その後の4回目接種に至った経過について論じる。

NEJMなど3誌でイスラエルでの3回目接種効果ありという論文が相次いで出された。3回目接種が広く開始されたのが8月1日なのに、論文受諾がそれぞれ8月29日、9月15日、10月29日というずさんともいえる速さ。そのうち2編はNEJMとLancetという超一流誌。3編とも2回目まで接種した群に対する3回目接種群の比較。結論は3回目接種群が優位に罹患、重症化、死亡を防ぐというもの。これらの論文が世界の3回目接種をという出来レースの根拠となっている。いずれも前方視野的比較ではなく、登録データからの観察研究であり、まず目につく特徴的は、3回目の接種希望者を随時2回目接種群から3回目接種群に変えるため、両群の数と観察日数がかなり複雑となり、恣意的に決定されているように見える。例えば3回目接種7日目からを比較したり、12日目からを比較したりとばらばらかつ分かりにくい。最大の特徴は、短期間の観察なのに、長期に有効性が続くかの如く判断した点である。実際は有効性と言われる期間は極めて短いことがわかる。

図1はNEJMから引用したものである。

縦軸は2回接種群に対し、3回接種群のコロナ確定罹患が何倍少なくなったか(感度分析)を接種からの日数で見たもの。接種第一日で3回群はすでに2回群の4倍有効と出ていて、その後低下、12日ころから本格的に有効性が増している。初めの数日はなぜ?という疑問については「ブースター効果が表れるまで危険なところを避ける」から、一方、「ブースター接種を受ける近傍はPCR検査を意図的に受けない」からという理由も持ち出している。

最も注目すべきなのはブースター接種17日目から素早く効果が減衰してきているところ。図は22日で終わっているため30日、60日のデータは推定するしかない仕組み。こんな論文を根拠に世界中で3回目接種の大合唱がすすめられている。リアルワールドを見てみる。当のイスラエルでは、図2に結果を示すように、3回目接種後減るように見えた患者数は11月中下旬から増加傾向を示し12月には明らかな指数関数的増加を見せてきた。2022年1/15には100万人当たり4429人(一週間の平均)となっている(日本は1/18日333/100万人)。12月30日から60歳以上に4回目の接種が開始された。が、イスラエルでオミクロン株が確認されたのが11月27日、実効再生産数は11月7日の0.96を底に、その後は1を上回っているためイスラエルでの3回目接種の感染防止効果は4か月未満だったということができるだろう。

11月末以降の罹患の急激な増加はオミクロン株の影響が大きいと思われる。イスラエル当局は3回目接種だけでは不十分という観点から、12月下旬からは4回目接種を開始した。が、今のところ増加に歯止めはかかっていない。別の観点から言えばオミクロン株に対するファイザーワクチンのブースター接種の感染阻止効果は極めて限定的と言わざるを得ない。

山本