紅麹事件と小林製薬
小林製薬が医師から「紅こうじサプリとの関連が疑われる症状で入院した患者がいる」と連絡を受けたのは2024年1月15日であった。同社がこれを公表し自主回収に踏み切ったのは2ヶ月以上経った3月22日である。その後の報告はなく6月28日には死亡76名となるなど被害は拡大し、7月7日現在で死亡233人となった。
入院452例の症状は尿の泡立ち・混濁、倦怠感、腹痛、腰痛、食欲不振、腎機能数値などの異常がみられている。原因はカビの混入などではなく、「ロバスタチン(コレステロール低下作用)」と同じサプリの有効成分モナコリンKとみられる。国立健康・栄養研究所のサイトにも副作用として急性腎不全が記載されていた。
機能性表示食品と安倍規制緩和
機能性表示食品制度は2013年6月、当時の安倍晋三首相が成長戦略「アベノミクス」の一つとして「健康食品の機能性表示を解禁する」と表明し、15年4月に導入された制度で、規制緩和による経済成長戦略の一つとして導入された。届け出のみで国の審査はなく、当初から安全性などへの懸念が指摘されていた。
調査会社の富士経済によると、2023年の機能性食品の市場規模は6865億円と前年比19.3%増。18年の3倍超に急拡大した。対照的にトクホの関連市場は大幅に縮小している。
形式的に資料がそろっていれば、国が中身を審査することなく販売できる。トクホよりも科学的根拠のレベルが低いものが多い。3月22日時点の参入事業者数はトクホで132社だが、機能性表示食品は1709社と急増している。
この「機能性表示食品」制度の創設を強く提言し、議論を主導させたのが、阪大寄附講座の森下竜一教授である。安倍首相は2013年に「規制改革会議」の委員に抜擢。森下氏は同会議で「健康食品、いわゆるサプリメントの機能性表示は海外では一般的」「雇用の促進、医療費の削減にもつながる」などと健康食品の規制改革を提言し、「機能性表示食品」制度の創設を主導した。機能性表示食品の研究レビューの作成、届出支援、臨床試験の相談など制度に対する支援業務を行う「日本抗加齢協会」では、森下氏が副理事長、森下仁丹の森下雄司代表取締役社長が理事、駒村純一顧問が幹事を務めている。
紅麹コレステヘルプ根拠論文のエビデンス
2020年6月に小林製薬株式会社は商品名コレステヘルプについて「表示しようとする機能性に関する説明資料(研究レビュー)」を消費者庁に届け出た。Pubmedなど文献検索データーベースでアウトカムを「LDLコレステロール値低下効果」として第1次69報、第2次7報に絞り込み、最終的に抽出された文献1報が根拠論文である。
内容は高めのLDLコレステロール値(120㎎/dL)の健常な日本人成人男女15人を層別解析で評価したとする、極めて小規模の臨床試験である。
この結果は紅麹100㎎または200㎎/日の摂取がLDLコレステロール値を有意に低下させることを示し、有害事象はなかったとするものである。結論として,研究レビユーで残った唯一の本論文から、当該製品が同じメーカーの紅麹原料であり、当該製品の機能性表示は適切としている。この論文は日本抗加齢医学会雑誌(森下氏が副理事長を務める日本抗加齢医学会誌)にのみに掲載されているもので、システマティックレビューを使って抽出したようにして、あたかもエビデンスがあるかのようにみせかけたものである。
命より金のバイオ利権
2015年に導入された機能性表示食品制度によってサプリ市場は1兆円市場に拡大し、厚労省は“効果”ばかりを宣伝し、「リスク情報」を消費者に閉ざしているのが現状である。
医問研ニュース566号(2022年10月号)でお知らせしたように森下氏の創業したバイオベンチャー「アンジェス」は2020年3月、阪大と共同でDNAワクチンの開発をおこなうと発表し、安倍政権はアンジェスに約75億円もの政府補助金を交付した。また府知事吉村は、「大阪ワクチン」を宣伝し株価を急騰させるなど「大阪ワクチン」は、政権だけでなく、日本維新の会の松井一郎や吉村洋文から全面的に支援を受けていた。
しかし開発は断念され、その総括もないまま、森下氏は大阪・関西万博の「大阪パビリオン推進委員会」総合プロデューサーに就任している。大阪万博は、元大阪市長の松井や府知事の吉村率いる日本維新の会が、時の安倍晋三首相や菅義偉官房長官に働きかけて進めてきた目玉政策である。
小林製薬は21年に大阪ヘルスケアパビリオンの協賛企業となり、プレミアムパートナー(協賛金5億円以上10億円未満)になったが、事件で協賛と出展を辞退した。
しかし万博推進委員会の総合プロデューサーである森下竜一寄附講座教授は、万博スポンサーのなかでも最上位の協賛企業に位置づけられる「スーパープレミアムパートナー」に、2019年7月から顧問に就任し経営にかかわってきた浄水器販売会社「株式会社サイエンス」の参加を決定している。
大阪万博は東京五輪と異なり、万博推進委員会が公益財団法人「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会」と違い、法律で定められた法人格のない任意団体であることから、東京五輪を上回るやり放題の利権あさりの危険性がある。
「いのち輝く未来社会のデザイン」の実態
コロナ対策で雨合羽、イソジン、大阪ワクチン、大規模コロナ療養センターと「やってる感」をみせた大阪府市の維新行政は、全国の16%という最多・最悪のコロナ死亡者を出した。その原因である地域の公立・公的医療機関、保健所・衛生機関の統廃合、医療従事者削減を改めるのではなく、ワクチン、再生医療、サプリといったバイオ産業の利権の擁護を進めている。
大阪中のごみの最終処分場である夢洲は、PCBなど有害物質を含む川底の泥やアスベストなど建設残土、産業廃棄物などが埋まっており、夢洲全体が有害重金属で汚染されている。万博の建物を建設する場合も、2.5m以上の掘削ができない所だ。子どもはもちろん集客施設を絶対に作ってはいけない場所である。爆発の危険があるメタンガスが漂い、ギャンブル依存症を生み出すカジノIR統合型リゾートの露払いとして、「大阪ヘルスパビリオン」のネーミングだけでは、不健康大阪の実態を隠し通すことはできない。
入江診療所 入江