高額療養費に関する問題点:同じ効果の薬剤が大変違う価格(NEWS No.597 p05)

政府は、今年8月実施しようとしていた高額療養費制度の改悪を一時凍結しましたが、いつ再提出されるかわからりません。厚労省はこの改悪で5330億円の給付費削減を見込んでいます1)。高額療養費制度による金額は令和3年度で2兆8035億円2)でしたので、削減目標はその2割程度に上り、この制度に大打撃を与えます。

この問題の基本的視点について、週刊MDSにこの改悪の端的な目標がまとめられています3)。これには、白血病の一部に効く「キムリア」が1回3千万、抗がん剤オプジーボが年間1千万、月1千万以上の薬剤費の件数が10年間で7倍になっている、との石破首相の発言に対して、「なぜそれらの薬剤が高額医療になっているのか、その決定過程はどうなっているのかを問うことである。」と重要な指摘をしています。短い文章ですがぜひ一読していただきたいと思います。

2023年度で、医療費が1000万円を超えるものが2156件あり、前年度より364件20.3%増でした。高額療養費の相当部分は、高額薬剤によります。朝日新聞2025年4月10日は、日本臨床腫瘍研究グループJCOG調査で10-15年前の従来型の治療に比べて10-50倍の薬剤費になっていたとの調査結果を報じています。同じ効果なのに金額が2倍の薬もあったそうです。

他の例としては、抗がん剤「オプジーボ」の2016年9月6日の価格が、英国を100とすると、米国が198,日本はなんと486でした。4)この薬が海外企業の販売なら、関税などもあり日本では少々高いというのであればそれなりに説明がつきますが、製造販売は小野薬品工業KKです。また、中医協資料2025年2月27日では、調査した薬剤の全体の平均価格の、欧州との比較では平均1.23倍、中央値1.11倍だったそうです。

<効果ない高額薬剤>

薬剤価格は、患者にとって本当に利益になるのかの科学的検討が最優先されなければなりません。オプジーボが、はるかに安価な従来の抗がん剤療法を超える効果はないことを示した文章を本ニュースに2回にわたり書いています。5)6)

さらに、欧州の学会が効果を確認したとされるキイトルーダは効くかのように見えましたが、実際診療でのその効果は不明です。7)

より明白な例は、塩野義製薬の「コロナ感染症治療薬」ゾコーバです。これは、現在の日本の甘い臨床試験でも全く効果が認められなく、認可の審査会で何回も承認が「延期」されたしろものでした。8)ところが、何らかの強い圧力があったのか、強引に認可されました。しかも、1錠5万円という高額な薬価がつき、認可された段階で700億円分を政府が買い取っているのです。大変な公費の無駄遣いですが、マスコミはほとんど取り上げませんでした。

<同じ効果なのに薬価が極端に違う高額薬>

次に、最近検討した薬剤料金決定が変な別の例を紹介します。

(特発性)肺線維症の治療薬Nintedanibです。治療薬とはいえ、治す薬でなく、認知症の「薬」と同様に悪化速度を遅らせるとの薬です。日本だけでなく多くの国で認可され、欧州でも使用されています。その日本での認可の審査報告書9)では一年間服薬すると肺機能FCVが使用群では4%程度悪化しましたが、コントロール群で8%程度でした。これは肺線維症医療の世界では意味あるものとして認められているようです。

この薬を調べていくうちに、作用機序は違いますが、ほぼ同様の効果・副作用である、Pirfenidoneという薬を知りました。こちらも、RCTのメタアナリシスも10)、国際ガイドライン11)でも、Nintedanibとほぼ同様の効果を認められています。これらの文献には、どちらが優れているとの記載はなく、多少の使い分け方法の指摘がある程度でした。先の文献には「しかし、ピルフェニドンとニンテダニブで治療されている一部の患者は、下痢、消化不良、嘔吐などの主に胃腸のさまざまな副作用を経験しました。ピルフェニドンの場合、一部の患者は光線過敏症や皮膚の発疹も経験しました。副作用が非常に重篤で、病気自体よりも脅威である場合、治療を中止する必要があります。特発性肺線維症患者の生存率は、中央値が3〜5年で、これは多くのがんよりもさらに低いという特徴があります。したがって、病気が検出されたらすぐに治療を開始する必要があります。」と記載されています。

以上のように、多くの研究がほぼ同様の評価をしているおり、副作用に関しても(Pirfenidoneの方が光過敏症が多いことを除き)ほぼ同様の評価をしているのに、薬価は 下表のようにあまりにも違いすぎます。

Nintedanibは一錠3982.4円、1日2錠で7964.8円、年間290万円を超します。ジェネリックはありません。(インド製品のジェネリックは個人輸入で1錠100㎎360円です。)他方で、Pirfenidoneはブランドで1錠360.7円1日3錠から始めますから1082.1円、年間39.5万円で、前者の7.3分の1,ジェネリックでは1錠138.2円で1日414.6円、年間15.1万で前者の19分の1です。

下表は、ネットで調べた比較の例です。これではニンテダニブが1日2錠、ピルフェニドンが1日9錠の設定です。実際上はこのような使い方が多いのかもしれません。だとしても、ブランドどうしで明らかに2倍の違い、ピルフェニドンのジェネリックとでは、5.4倍の違いがあります。

他方で、なぜかわかりませんが、ある文献12)では「ニンテダニブは、ピルフェニドンと比較して特発性肺線維症のより費用対効果の高い治療法であるようです。」「この原稿の査読者は、彼らが研究で評価された薬を販売する会社に雇用されていることを明らかにしました。」と評価されています。著者の利益相反がなしで、「査読者」が販売会社の社員という論文はあまり見ないように思います。ともかく、販売会社の社員が査読するという雑誌はその会社の強い影響下に置かれていると考えられますので、両薬の効果が似ていること、ニンテダニブの費用が高すぎることに対する対策として書かれた論文の可能性もあります。この論文の結論は一般化されたものでなく、日本での両薬の薬価の違いは、異常なことに違いがありません。

新薬とはいえ、すでに存在するジェネリック薬に対して本当に優位の有害作用も含めた効果を証明しなければ高い薬価を認めることはおかしいはずです。

薬価は、様々な要素を検討して決められると思いますが、その薬剤が患者・家族にどれほど貢献するのかという、効果と害作用の科学的評価が基本となるべきです。それらのデータが本当のものであるかが問われます。さらに、「開発費用」の中に、認可や宣伝に使われる費用が大幅に水増しされている可能性もあります。薬価決定のデータ全ては、その薬剤費を税や健康保険、そして自己負担で払っている市民に開示するのは当然のことです。

製薬企業のブラックボックスで作られた臨床試験のデータは信用できないことは、コロナワクチンの例でも証明されています。(「大人の臨床試験のRCTを、FDAなどに提出されたデータを使って再検討したところ、「重篤な特に関心のある有害事象AESI」は、ワクチンが入院を抑制したとの人数より、ファイザー製で4.4倍、モデルナ製で2.4倍だった等を論証。」13)「裁判で開示された元データを分析、ファイザー社が発表した臨床試験報告のRCTとは大変違い、循環器死亡はワクチン群が対照群の3.7倍以上等」14)

タミフル問題を機に、明白となったことは、臨床試験の公開された元データでなければ科学的評価ができなく、現在の製薬企業のデータでは信頼できないのです。15)16)

この臨床薬理学の基本はコロナパンデミックの中で押しつぶされようとしていますが、それだからこそ「高額医療費」を契機に、この視点を強調することが重要だと考えます。

(はやし小児科 林敬次)

<文献>

1)     https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/2025-02-07/

2)     令和6年11月28日第187回社会保障審議会医療保険部会資料2

3)     http://www.mdsweb.jp/doc/1864/1864_03a.html

4)     全国保険医新聞2020年7月15日

5)     http://ebm-jp.com/2017/04/news-495-2016-11-p01/

6)     http://ebm-jp.com/2017/04/news-496-2016-12-p06/

7)     https://kondo-makoto.com/report/report018.html

8)     http://ebm-jp.com/2023/12/news-578-2023-10-p04/

9)     https://www.pmda.go.jp/drugs/2015/P20150619001/530353000_22700AMX00693000_A100_1.pdf

10)   https://bmcpulmmed.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12890-021-01783-1

11)   日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2023年 第32巻 第1号 1- 7

12)   https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14737167.2025.2480718

13)   J. Fraiman, J. Erviti, M. Jones et al. Vaccine2022;40:5798–5805 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9428332/

14)Corine Mechelset al. doi: 10.20944/preprints202309.0131.v1

15)  https://www.bmj.com/tamiflu

16) ベン・ゴールドエイカー「悪の製薬」青土社2015年6月10日p112―)