3.11福島原発事故から丸9年目に向けて(NEWS No.522 p01)

福島への半強制的帰還政策を支える一つに、反科学的な「学者」が作り出した「放射線による健康障害がない」というウソがあります。医問研は事故9年目も健康障害の科学的な証明に努力します。これまでに私たちが取り組んできたことをまとめ、今後の課題について述べます。これらの多くは当ホームページで見ていただけます。

低線量被ばく一般>の基本的問題は、チェルノブイリや職業病などさまざまな研究をまとめて、「低線量被ばくの危険性」耕文社(2011年11月発刊)で発表しています。

甲状腺がん「甲状腺がん異常多発とこれからの広範な障害の増加を考える」耕文社(2016年2月発刊)では甲状腺がん異常多発問題を中心にその他の障害を検討しています。私たちの見解は、甲状腺がんは岡山大学津田敏秀教授のEpidemiology論文で世界中の疫学専門家により認められた結論と同様です。前述の本に甲状腺がんの発見率と放射線量の相関を示しており、それはドイツの著名な生物統計家シェアプ氏によりさらに厳密な分析がなされつつあります。
福島県県民健康調査の甲状腺検診から、甲状腺がんのリスクが高い「結節」を有する小児が検診システムから外され、相当数の甲状腺がんの発生が隠されています。甲状腺がんの多発を国に認めさせることは中心的課題の一つです。

周産期死亡・流産・乳児死亡>福島原発事故後の周産期死亡の増加を、前述のシュアプ氏との共著でMedicineに発表し、国際的な反響がありました。これには政府も慌てたのか、環境省の多額の研究費で福島医大高橋秀人氏の「増えていない」とする報告が出ました。そのでたらめぶりは、医問研ニュース2017年8月号9月号で批判しています。政府のごまかしを許さないことが必要です。

先天的形態異常>福島県県民健康調査の結果で、先天異常が増加していないとの原発推進派の主張は間違いです。まず福島県民健康調査の方法は、このテーマを調査するには普通には用いられない「アンケート調査」です。このような答えにくいテーマでは、大きなバイアスが考えられ、科学的とは言えません。(その調査でさえ、2011年の先天異常は増加していますが。)さらに、放射線障害に特異性が強い多指症では、より正確な「クリアリングハウス」のデータを使うと、増加している可能性が示されています。さらなる検討が必要です。
多くの研究により、人間以外では放射線障害はその遺伝が証明されています。人間だけはそうでない証拠はどこにものありません。

甲状腺がん以外のがんや、循環器などその他の疾患>さまざまながんやその他の疾病の増加が週刊誌などで報道されました。これらは可能性を示したものであり、正確に証明することが求められています。検討が強化されなければなりません。

トリチウム放出の影響>汚染水の放出が危惧されており、この面の研究が必要です。さまざまな動物実験などでの成果のまとめが必要です。カナダでの人間の調査結果で、以前認められていた障害性が否定されてきています。それらの論文の問題点の研究も課題です。

これらには多くの困難があります。内外の学者と連帯しながら、多くの方々の意見を反映した活動が求められています。皆様のご指導・ご協力をお願いいたします。